『バカめ…私の事さ。過ちを認めるのは難しい。期間が長いと特にね。すまない。ちゃんと償うよ』
孤独だけど、孤独じゃなかった。人生、遅すぎることなんて何もない。
「幸せなひとりぼっち」
(2015年/ハンネス・ホルム監督)
ここはスウェーデン。オーヴェは近所からちょいとウザがられている独居老人。自治会の規律にうるさくルールを守らない住人には遠慮なく言葉の刃を振りかざす。
絵に描いたような定年後頑固爺…かと思ったらまだ59歳。嘘ぉ!? 俺と大して変わらないじゃん!?
「ストレイト・ストーリー」のアルヴィン・ストレイトと並ぶ“見た目>設定年齢”。
愛する妻に先立たれ、43年勤め上げた鉄道会社も仕事の「し」の字も知らないような若造管理職にリストラ宣告されて退職。妻無し職無し未練無し。
死のう…。
あれこれ試すもいつも邪魔が入って失敗。どうして死なせてくれんのだ!
オーヴェの半生が自殺しようとした時の走馬灯として描かれる構成が見事(自殺→走馬灯→自殺失敗→再挑戦→走馬灯→また失敗)。
前半「遺影」という形でしか写されない謎に包まれた妻ソーニャが回想の中で登場した時は『ソウニャキター!』な昂揚感に包まれました。
二人はどのように出会い、結ばれ、どんな試練をくぐってきたのか。
お話の鍵を握るのはオーヴェの向かいに引っ越してきたイラン人一家の妻パルヴァネなのですが、個人的推しキャラは共に自治会の礎を築いた旧友ルーン。
会った時から気が合い、二人で自治会を支えてきたのに、“車の趣味が違う”というしょーもない理由で仲たがいし、互いに謝る切っ掛けを掴めぬうちにルーンがパーキンソン病に。
もはや意思疎通の叶わぬ悪友に別れの悪態を告げた時、動かぬはずの腕がオーヴの持っていたホースを掴む。
(待て、死ぬな)
人によってツボの異なる映画だと思いますが、私はここがツボでした(ええ、泣きましたとも)。
因みにオーヴが持っていたホースはこの後、自動車の排気ガス引き込みツールとして活躍します(勿論、ガス自殺失敗)。
イラン人一家、猫、ゲイ、物言わぬ友、追憶の中の妻、オーヴェを覆う外骨格のような頑迷さが溶けて剥がれて…。
第89回アカデミー賞「外国語映画賞」、「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」ノミネート。
★米国の頑固爺はこちら。
★英国の頑固爺もどうぞ。