8月にDAICON FILM版(素顔の巨大庵野版)「帰ってきたウルトラマン」を御紹介したので本家の方も。
「帰ってきたウルトラマン/第33話・怪獣使いと少年」(1971年11月19日放送/東條昭平監督)
問題作という意味ではシリーズ屈指。最早地上波の放送は難しいのではあるまいか。
舞台は川崎のとある河原。
砂利を一心不乱に掘り返しているひとりの少年。
このちょっと変わった事をしているという理由だけで、少年に宇宙人の疑惑がかかります。
『あいつは宇宙人だ。はやく殺さないと俺達が殺される』
少年は近所の学生たちから凄惨なリンチを。
少年の手のひらをアジアに於ける日本人の象徴「高下駄」が踏みつける。
『僕のふるさとは北海道の江差さ。宇宙人じゃない。日本人だ』
少年は炭鉱の閉鎖で出稼ぎに出たまま行方不明になった父親を捜しに上京してきたのでした(母親は病死)。
実は河原の掘っ建て小屋に住む老人、金山がメイツ星から地球の環境調査(侵略ではない)のためにやってきた宇宙人でした。
金山は念動力で宇宙船を河原に沈め、怪獣ムルチを地底深く封印。
が、地球の汚染された空気に肉体を蝕まれ、余命いくばくもない体になってしまいました。
少年は念動力の使えなくなった金山の代わりに円盤を掘り出そうとしていたのです。
郷秀樹(ウルトラマン)は、何とか二人の力になろうとしますが、暴徒と化した住民が大挙して押し寄せて来ます。手に竹槍(!)を持って。中には制服姿の警官も。
『宇宙人を殺せ!』
郷の制御も虚しく袋叩きにされて引きずられていく少年。
たまらず小屋を飛び出して来る金山老人。
『やめろ!宇宙人は私だ、その子を離せ』
警官の拳銃が火を噴いた。1発、2発。絶命する老人。
『おじさん!』
金山の死によって封印が解けたために地上に姿を現す怪獣ムルチ。
『怪獣だ!お、おまえMATだろ。早く怪獣を倒せ!』
郷が心の中で呟く。
『勝手な事を言うな。怪獣を呼び起こしたのはお前達じゃないか』
煤煙をまき散らす工場群を破壊する怪獣。この後、ウルトラマンが怪獣を倒しはするのですが、「故郷は地球」のジャミラ以来の爽快感の無さ。景気のいいBGM(ワンダバ)が援護射撃とばかりに虚しさの上塗りをしています。
ラスト、誰もいなくなった河原を少年がいつまでも掘り返しているカットで物語は終わります。
どこまでも救いの無い話です。
にも関わらず、この完成品はリテイクされたもの。オリジナルはTBSから「受け取り拒否」されたんだとか(なにそれ観たい)。
脚本を書いたのは沖縄出身の上原正三。
帰ってきたウルトラマンで上原が担当したエピソードは、
「二大怪獣東京を襲撃」「津波怪獣の恐怖 東京大ピンチ!」「二大怪獣の恐怖 東京大龍巻」「怪鳥テロチルス東京大空爆」・・・。
もうこれでもか、というくらい東京を破壊しています。帝都物語の加藤のよう。
怪獣使いと少年の舞台となった川崎の河原には、朝鮮人だけでなく、沖縄人の部落もあったそうです。
余談ですが、ウルトラセブン製作時、上原が脚本を書いたが撮影はされずに封印されたエピソードがあります。タイトルは「300年間の復讐」。
昔、平和的な宇宙人が地球に流れ着いたが、髪の毛が赤いというだけで「鬼」として「退治」され、たった一人生き残った「鬼」が山奥で300年かけて兵器を作り日本人に復讐をするというストーリーです。
もう隠喩も暗喩もありません。
※切通理作氏によるウルトラマン作家論集「怪獣使いと少年」と「上原正三シナリオ選集」
★上原正三に関してはこちらを。
★DAICON FILM版「帰って来たウルトラマン」はこちら。
★よろしければこちらも
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