『モンストロが仇を討ってくれる』
『モンストロが助けてくれる』
覆面レスラー、エル・モンストロ。類まれな体躯に恵まれ、テーマ曲を歌って病を癒す奇跡まで引き起こしたと言われる伝説のルチャドール。
子供のみならずメキシコ人全てのヒーロー。
しかし、そのモンストロはもうこの世の人ではありません。
ここにいるのは、体躯に恵まれず、リング上でトラブル(多分殺人)を起こし、売春と臓器売買を生業にしているマフィアの手先(借金回収係)にまで落ちぶれた二代目。
マスクだけを受け継いだ不肖の息子、モンストロ2世です。
「ローライフ」
(2017年/ライアン・プロウズ監督)
スローライフではありません。LOWLIFE(下層階級や前科者を指すスラング)です。
舞台はメキシコ国境近くのLA。マスクマンとかも出て来るし、「庶民は逞しいぜ、どん底アッパーライフ!」みたいなものを想像していたのですが、いきなり移民不法逮捕、少女は売春強要、大人は殺して腑分け、眼球は勿論、金歯1本に至るまで全身くまなく換金する歩留まり100%の効率経営を見せられて面喰らいました。
この人でなし山の頂点にいるテディ(表向きは「テディズ・タコス」の経営者)と関わったために“人生エライこっちゃ”になっていく市井の人々。
彼らが善良な市民かと言うとまあ見事に全員クズ(笑)。
本来、出会うはずのない彼らの行動を少しずつ視点を変え、時間軸を戻しつつトレスして、やがて全体の絵柄(相関関係)が浮かび上がるという仕組み。
そのトップバッターが冒頭のモンストロ。
MONSTRUO、英語だとMONSTER。怪物です。
父親(先代モンストロ)への畏敬とコンプレックスで精神状態はかなり脆弱。
大して強いわけでもないのにキレると絶叫と共に五感が四散して意識喪失、目覚めれば目の前に死体。
『死んだ人間からどうやって金を回収するんだ』
もはや彼の希望は妻ケイリー(テディに売春させられていたがモンストロに払い下げられた)に宿った後継者のみ。息子を本物のモンストロに。
ケイリーはヤク中。ケイリーをテディに売り飛ばした母クリスタルは亭主ダン共々アル中。クリスタルは断酒に成功しましたがダンはズルズルで余命僅か。助かるには腎臓の移植が必要。最適格ドナーは勿論、娘(売買の仲介役は当然テディ)。
という具合に芋づる式に話が繋がり錯綜していきます。
手触りは「アモーレス・ペロス」に近いでしょうか。
『死ぬ時はルチャドールのように』
まだ見ぬ息子のため、上着を脱ぎ捨て、上半身裸になるモンストロ。父の呪縛から解放されるには死ぬしかないのでしょうか。
友人のために10年喰らって(その間に恋人は友人に寝取られて)、顔面鉤十字タトゥーで出所してきたホワイト・トラッシュのランディが本作唯一の良心。
いい奴です、ランディ。
モンストロのキャラをもう少し掘り下げて使い込んでいれば、もっと“いい感じ”になったと思うのですが…。色々惜しい。
★ご参考
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★本日8月27日はタン・ロンの命日(2011年)。
タン・ロンと聞いて「ああ、あの人ね」と思う人は結構「通」。
ゴールデン・ハーベスト社公認のブルース・リーそっくりさんです。
「死亡遊戯」が有名ですが、代表作はやっぱりこれでしょう。