真上からの神の目。模式図のようにも何かのクローズアップのようにも見える不思議な構図。
やがて鳥が横切り、画面の隅に小さく馬やボートが映り込んでそれがかなり広範囲なエリアを切り取った空撮であることが分かります。
右下の写真とか「脳みそ」にしか見えません…。
そこはスペイン、アンダルシア州。グアダルキビール湿地ラス・マリスマス(覆面レスラーではない)。
湿地帯。スペイン語でlas marismas。英語だと、
「マーシュランド」
(2014年/アルベルト・ロドリゲス監督)
首都マドリードから湿地が広がる田舎町に左遷された刑事ペドロ(ラウール・アレバロ)はベテラン刑事フアン(ハビエル・グティエレス)と組んで、町の祭礼中に強姦・拷問されて殺害された2人の少女の事件を捜査する、というプロットなのですが…。
キモは1980年という微妙な時代設定。
36年続いたフランコ独裁体制が1975年に崩壊して5年。
44年間空位だった国王の座についたフアン・カルロスは民主化を推進。
77年には41年ぶりの選挙が行われ、78年に新しい憲法が制定され、スペインは立憲君主制に。
しかし、未だ政治の実権を握っているのはフランコ派の政治エリートたち。
かつての反体制派が政治に参加するまで、あと2年待たねばならない…それが1980年のスペインです。
若いペドロは民主主義の信奉者。旧体制に染まったまま民主主義に馴染もうとしない警察組織を内部告発したのが左遷の理由。
対するベテラン刑事、フアンは独裁政権に首まで漬かっていた旧体制の申し子(しかもフランコ政権の秘密警察である治安部隊出身←1978年解体)。
単なる凸凹コンビではない、年齢差を超えたイデオロギー・ギャップ。
民主主義の歩みは遅く、この田舎町には未だ旧態依然とした価値観が根強く。
廃墟となった家の壁には当時のフランコ政権を支持するスローガンが。
そんな町で起きた連続猟奇殺人事件(数年前にも同様の殺人が複数件)。
捜査に非協力的な田舎町というと「ミシシッピー・バーニング」を思い出します。
湿地帯という舞台はアイスランドのミステリー「湿地」(そのまんまやな)を、ざらりとした手触りは「殺人の追憶」を彷彿とさせます。
要所要所に挟まれる俯瞰アングルが新鮮なアクセント。
殺された少女の墓所。真上から視点は空間認識を新たにします。
事件が解決して尚尾を引く疑念。索漠とした後味。
ずっしりとした重い印象は、やがて「映画を観た」という充足感に代替され…。
バーで流れるバカラの大ヒット曲「誘惑のブギー(Yes Sir, I Can Boogie)」(1977)が懐かし良い感じでした。
2014年サン・セバスティアン国際映画祭で主演男優賞(ハビエル・グティエレス)など3部門受賞。
同年の第2回フェロス賞ではドラマ部門作品賞や監督賞など5部門で受賞。
2015年の第29回ゴヤ賞では、のべ17部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、新人女優賞、作曲賞、撮影賞、編集賞、美術賞の10部門(最多)で受賞しました。
★ご参考
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★本日3月4日は佐野史郎先生(1955~)の誕生日(おめでとうございます!)
佐野さんと言えば筋金入りのラヴクラフィティアン。好きこそものの上手なれ。
そう言えば佐野さん、「私が愛したウルトラセブン」で金城哲夫さん演ってましたね。
★本日のTV放送【13:00~BSプレミアム/プレミアムシネマ】