『弾ぐのか?』
『うん』
『弾げるのか?』
『弾げるわけね。じっちゃみてぇに左手さ10本も20本も指がついてるみてぇな弾き方、できるわけね』
『なして弾こうと思ったんだ?』
『じっちゃの春暁のさわりを知ってるおばあさんがいた。おばあさんが聴きたがっていることより、聴かせたがっている女の子の必死さが、願いと違う事をしてしまったら…ってキツくて』
高校でひとり津軽三味線愛好会を続けている前田朱利のおばあちゃんは幼少期の疎開先で雪の祖父・松五郎の演奏(春暁プロトタイプ)を聴いていました。今もその一節を口ずさむおばあちゃんにもう一度その曲を聴かせてあげたい。
その願いを自分は叶えることができるのか。
そんな雪の苦悩にこともなげに答える兄・若菜。
『弾げなくても怖がる事ねえ。おばあさんにお前の春暁ば聴かせればいい。おばあさんの持っているじっちゃの記憶におめえか加わればいいだけだ。春暁はこうなったって、記憶の上書きして来い』
若菜から届いたじっちゃの演奏テープ。砕ける波が、吹きすさぶ風が、降りしきる雪が、そして暁の光が見える…。
『俺がじっちゃになれる訳ねえんだ。せば、じっちゃの音ばひとつひとつ、捨てるしかね。削ぎ落す。じっちゃの春暁を俺に…俺の音に』
遂に雪が春暁を奏でます。
「ましろのおと/第3話・驟雨|第4話・春の暁」(2021年4月16日・23日深夜BS-TBS放送/赤城博昭監督)
第3話は所謂「溜め回」。
津軽三味線の全国大会でA級を二連覇している実力派奏者・緒方洸輔(おがた こうすけ。名取名・神木清流)が初登場。
東京で行われた神木清流のライブ会場を訪れた雪は控室で清流の三味線を弾く機会を得ますが実力発揮にはほど遠いがっかり演奏。
どうも雪は弾く衝動とか聴かせたい想いのようなものがないとスーパーパワーを解放できないタチのようです。
観ている側としてはストレスのたまる展開ですが、清流はしっかり雪の潜在能力を見極めておりました。
『僕の前で音を見せなかった。雪くんを引っ張り出すのは大変だよ。あれは自分の力では育たない。聴く人に育てられるタイプだ』
視聴者の溜飲を下げると同時に、清流の凄さを認識させる好演出。
ただ、雪にこの話を聞いた若菜ちゃんは激怒り。
『奴の前で失態こいたってか!? あのキザな東京野郎の前で!? そったら半端くせえ奴、死ね!』
そして演奏当日。場所はお祖母ちゃんが入居している施設。
『ずっとじっちゃの音を覚てた人…教えてくれるか、春暁を生み出せたじっちゃの想いを。なあ、じっちゃ、じっちゃの昔の音しか知らないこの人に、託していいか? 俺のこれからの道しるべ』
『あの時のことを、聞きたいのかい?』
じっちゃの音を削ぎ落した雪の春暁。おばあちゃんの追憶に音がつき、色がつき、過去と現在が繋がって…。
いやこりゃ泣くよ。回想と演奏のサイドイッチラリアットは「砂の器」が証明した鉄板の号泣レシピ。
これで前半の山場をひとつ超えたことになります。
さて次の展開は…と思ったら梅子だ(笑)。
物語を転がすのがトリックスター梅子の役割なんですね。
にしてもまさか「雪さん見守り部隊」などという密偵(ストーカーとも言う)まで放っていたとは。
いやはや。母子揃って逸材だ。
おまけ
悩む雪の姿を見て『元気がないのはお腹がすいているから』と握り飯を作ってそっと差し入れる桜ちゃん。ええ子です。
----------------------------------------------------------------------
★本日4月25日はアル・パチーノ(1940~)&タリア・シャイア(1946~)の誕生日(おめでとうございます!)
この二人が揃ったら何はさておき
個々に1本ずつ挙げるなら、パチーノはこれを
そしてタリア・シャイアはこちらを。