「さて…」
観終わって考えをまとめるためにブランデーのお湯割り(角砂糖をお湯で溶かしてからブランデーを注ぐと美味しい)とか作ってみる。
一口飲んで再び思考を戻す。
「さて…」
…この監督は何がしたかったんだろう?
「貞子」(2019年/中田秀夫監督)
原典「リング」生みの親による時間軸地続きの最新作…ではあるのですが。
脚本、演技、演出、かつてこの3つがここまで見事に噛み合わない作品があったでしょうか(多分たくさんある)。
超能力を持って生れて来た(と思われる)娘を貞子の生まれ変わりとしてクローゼットに監禁していた霊能者の母親は、何故貞子の存在を知っていたのでしょう(霊能者だから?)。
何故娘を貞子の生まれ変わりと断じる事が出来たのでしょう(霊能者だから?)。
因みにこの母親(ともさかりえ)は娘を焼き殺そうとして、反対に焼き殺されます。現場を去った娘は行き倒れて、主人公の勤務する病院へ。
呪いのビデオの存在は跡形もなく消し飛び、呪いは貞子の視認もしくは貞子との接触で発動されることに。お話の根源に係るルール変更ですが、理由の説明は一切無し。
ソフトのジャケに付いたコピーは≪撮ったら、死ぬ≫ですが、撮ったのひとりだよなぁ。
しかも、馬鹿丸出しのyoutuber。
「禁断動画」とか「ほんとにあった!呪いのビデオ」とかなら、偶然写ってしまったものを怖いと感じる事もできますが、ここにyoutuberが絡んだ瞬間、一気に偏差値ダダ下がり。
ネットの書き込みに楽屋落ち(「1週間で死ぬ」「3日じゃね?」)が入っているのも萎えます。
加えて撮影映像にサブリミナル的に挿入される(従来の「呪いのビデオ」に相当する)絵面が超手抜き。あの凝りに凝った「呪いのビデオ」作った人と同一人物とは思えません。
更に、主演の池田イライザの演技が大笑い。日常会話をしている分には気にならないのですが、感情表現が加わると一気に大根露呈。
彼女に限らず主要演技陣は総崩れ。貞子を知る謎の老婆(貞子との関わりは不明)役の吉村実子とか黒澤映画(どですかでん)や岡本映画(赤毛)にも出ている超ベテランなのに何故か大根臭が…。
まともな演技が出来たのは「リング」の生き残りである倉橋雅美を演じた佐藤仁美ただ独り。
で、倉橋が「リング2」以来20年ぶりに貞子と再会するわけですが、貞子の登場方法が懲りもせずアレ。
これが通用するのは予備知識無しの初回だけで、2回目以降はギャグでしかないということに何故気づかん?
しかも貞子の動きが速い。ほとんど虫。シャカシャカシャカって感じ。
これが本当に虫だったら尋常じゃない恐怖ですが、貞子じゃねえ。
公開時、ポスターについたコピーは≪この映画、容赦ない≫でしたが、ええっとどの辺りが?
病院に収容された少女が同じく入院中のクソガキども(全員滅茶元気)にいじめられた時に念力で全員の首でもすっ飛ばせば少なくとも印象に残る作品になったでしょうが、そばにあったキャスターワゴン転がしてビビらせるだけ。つまんねー。
そして何と言っても笑いどころはクライマックスの水遊び(以下、景気よくネタバレしますが、知っても作品の評価は変わらないと思います)。
伊豆大島にある岸壁の祠は間引きのメッカ。ここに捨てられて波にさらわれた赤ん坊は数知れず(現在は岩が崩落して入口が塞がっている)。
この中に行方不明の弟(←貞子に呪われているyoutuber)がいると確信した主人公は、弟の友人と共に現場に赴き、地元の警察と漁業組合か何かに捜査を依頼しますが、潮が満ちて危険だから今日はもう駄目と途中切り上げ…でも、全然潮が満ちてくる気配ないぞ。
いやそれ以前に君ら波打ち際うろうろしているだけで祠に近寄ってもいないじゃん。
暗くなってからも潮が満ちる気配はなく、すんなり祠に辿り着いて忍び込み成功(正確には中から引きずり込まれるのですが)。
ここで主人公が赤ん坊貞子を捨てに来た母・山村志津子の姿を幻視…ってそんな設定いつ出来た? 貞子が実の父親に古井戸に投げ込まれて死ぬ設定は生きているのに。どうやって貞子は生き延びたんだ?
主人公らは無事、弟を発見しますが、ここで真打ち・貞子登場。
それまで錯乱状態だった弟が突然「姉ちゃん!」と我に返って姉を庇うと貞子は「じゃ、お前でいいや」とばかりに弟を掴んで海中へ引きずり込もうと…する様をぼーっと眺める姉。いやすぐ助けに行けよ。
ようやく弟を追いかけようと立ち上がると、それまで成り行きをぼーっと見守っていた友人がその後を…って遅いよ。誰のキューサイン待ってたんだよ。
ここからセットの中に作った水たまりの中で、弟を引っ張る貞子と姉を引っ張る友人の間で激しい綱引き。
いやあ、てっきり追いかけていった友人は姉と協力して弟を引っ張り戻すんだと思ったら、姉だけ引き剥がそうとしている? 姉は助けるが弟は見殺しって事か?
で、めでたく弟だけが海中へ。この後取ってつけたようなエピローグがあってエンド。
中田監督は「女優霊」「リング」「仄暗い水の中から」で作った貯金を完全に使い果たした上に自己破産しましたね(全く同じ事が清水崇監督にも言えますが…)。
これなら妙な方向に躊躇なく振り切っていた「貞子vs伽椰子」👇の方が100倍面白かったです。
★国内で増殖する貞子
★海外で増殖する貞子。
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