東宝東和に鍛えられた世代にとって「ジャケット詐欺」は販促の基本…ではありますが。
やはり詐欺の根底には生暖かく見守れる「微笑ましさ」が必要なのではないかと。
「デストロイ8.8」
(2011年/セバスチャン・レリオ監督)
8.8と言うのは、2010年2月27日にチリを襲った巨大地震の大きさ(マグニチュード)。
高さ30mに及ぶ津波が家も人も丸呑みごっくん。
約800人(内身元が確認されたのは279人)という犠牲者と引き換えに1.2㎢の領土増加(地盤隆起)を得た神と人の不公平取引。
全く以て偶然ですが、1575年の今日、やはりチリ南部のバルディビア沖でマグニチュード8.8の巨大地震が発生しております(バルディビア地震)。
同じ地震大国として他人事ではありませんな。
マヌエル(ルイス・ドゥボ)は刑務所服役中にこの大地震に遭遇。
文字通り堰を切ったように溢れ出る囚人の波に紛れて脱獄成功。
押し流されたのは囚人だけではありませんでした。
海辺にはどこから辿り着いたのか虎が一匹、檻ごと。
さて、問題です。この後、お話はどう転がっていくのでしょう。
- CGを駆使したディザスター・スペクタクルに。
- アフター・ショックを生き延びる囚人のサバイバル・ストーリーに。
- 瓦礫の街で虎と対峙するアニマル・パニックものに。
- 規律無き世界で虎と心通わせるヒューマン・ストーリーに。
- 警察の手から逃れつつ、生き別れになった妻子を探して彷徨う家族愛ものに。
答えは全部ハズレ。
災害映像はひとつも無し(遠くで「津波だー!」「きゃー!」という声だけは聞こえる)。
虎は暴れず懐かず喰わず走らず(何しに出て来たんだ。あと、自分で逃がしておいて、徘徊してる虎見てビビってるのおかしいだろマヌエル)。
近くを軍や警察関係車両が通る時だけやたらサスペンスフルな音楽になりますが、それだけ。追われず見つからず捕まらず。
なんだこの何も起きない何も起こさない展開は。
にもかかわらず、DVDのジャケットがこれ👇ですよ。
写っているものすべてが嘘という販促の見本(凄いぞラインコミュニケーションズ)。
たまに思い出したように「♪私は向かっているのだ。約束のカナンの地ヘ」な歌が(3回も)流れてキリスト教的深淵さを演出しようとするのですが、とってつけた感満載で観ていて恥ずかしい限り。
震災の翌年に映像化と言う目端の利き具合は凄いですが、これをリアリズムだの芸術映画だの言われてもなあ。
キリスト教的イメージを重ねつつ、何も起きないで終わるという意味では「スウィート・スウィートバック」に近いものがありますが、向こうは根底に不条理に対する怒りがあるので、「志」が違うと思います。
★ご参考
★あ、あと虎と言えばこれですよね。