『東ドイツ時代、ここはトラック運送人民公社だった。ルディやウォルフガングも一緒に働いていた。クラウスもだ。だが時代の流れでここは閉鎖。今の会社に買収された。再統一の勝者だよ』
灯りも落ちた深夜の巨大スーパーマーケットの通路を清掃車が走る。フォークリフトが走る(BGMは「美しく青きドナウ」)。
そこはかつて東ドイツと呼ばれていた。
「希望の灯り」(2018年/トーマス・ステューバー監督)
旧東ドイツ、ライプツィヒ近郊にある巨大スーパーマーケットの在庫管理係の職を得た無口な成年クリスティアン(フランツ・ロゴフスキ)。
教育係はブルーノ(ペーター・クルト)。
再統一前を知っている男と再統一後しか知らない男。そしてスーパーで働く仲間たち。
通りが良いので巨大スーパーマーケットにしていますが、クリスティアンが店に来た昔のヤンチャ仲間に『何で入れた?』とか聞いている所を見ると、ここ会員制ホールセールクラブです。
米国だとコストコ、ドイツだとメトロが代表格(日本でも1992年にダイエーがサムズを真似てコウズ【Kou's】なんてものを展開しましたが2002年になくなりました)。
※メトロの店内
馬鹿みたいに高い天井と、その天井すれすれまである棚にぎっしり詰め込まれた商品。
在庫管理(と品入れ品出し)に不可欠なツールが電動フォークリフト。
『2週間でフォークリフトの運転を覚えろ』
棚もケースも薙ぎ倒しそうなくらい危なっかしかった操作もいつしか手馴れて…。
社内研修で使っているビデオ教材が何故かスプラッター(フォークリフトの操作ミスで仲間をバラバラにしてしまう)。
クリスティアンは車の運転はできると言っていますが、車自体は所有していないようで、皆が車で帰宅する中、ひとりバス停へ。
運転手のお兄さんが尋ねる。
『どんな1日だった?』
『いい日だったよ。そっちは』
『同じく』
何気ないやりとりですが、ちょっと泣きそうになりました。
クリスティアンを自宅に招いて酒をふるまうブルーノ。
『俺たちはトラック時代からいつもつるんでいた。いいチームだよ。楽しい時代だった。今はフォークリフトの運転だ。…長距離トラックが懐かしい』
それはクリスティアンは知らない時代。でも黙って聞く。
徒歩での帰り道、脇の道を轟轟と音を立てて走り抜ける長距離トラックの群れ(コンボイだ)。
ドイツ民主共和国(東ドイツ)時代への郷愁をオスタルギー(ドイツ語で「東」を表す「オスト(Ost)」と「郷愁」を表す「ノスタルギー(Nostalgie)」の合成語)と言うそうな。
言葉で語られる話と現実が必ずしも一致している訳ではなく、かといって敢えて説明もしない。代わりに散りばめられた音がヒントに。
あれこれ察しながら読み進める大人の日常譚でした。
★ご参考~何となく雰囲気が似ているかなぁ、と。
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★本日6月14日は「新日本暴動記念日」。
そう、2年連続の悪夢、第2回IWGP決勝戦が行われた日です。
事の経緯と裏事情(真実とは限らない)はこちら。