
「ゴジラ」がアメリカ人(レイモンド・バー)主役であれこれ撮り足され(あれこれ切り捨てられ)「怪獣王ゴジラ Godzilla King of Monster」になったのは有名な話ですが、「大怪獣バラン」(1958年/本多猪四郎監督)も似たような(と言うかもっと酷い)目に遭っていたんですねえ。
オリジナルは伊福部先生の音楽とバランの造形こそ素晴らしかったものの、お話は上長で退屈でした。しかし、「ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発」でみうらじゅんが『来たねえギララ。でもできればバランかバラゴンに来てほしかった』なんて言うくらい一部の人の心には熱いサムシングを残しているキャラでもあります。
案外、アメリカ人の手が加わることによっていい感じのテンポに換骨奪胎してるかも…何で思った私が馬鹿でした。
いやあ…酷い。
「Varan The Unbelievable」(1962年/ジェリー・A・バーウィッツ監督)
US版に当てがわれた新キャラはアメリカ軍将校ブラッドリー司令(マイロン・ヒーリー)とその秘書・シズ子(小林鶴子)。
オリジナルの映像はごく僅か(資料によって15分だったり30分だったりまちまちですが、バラン登場時に約8分、クライマックスで約17分の引用があったので、その他細々したカットを合わせると「30分足らず」が正解なんじゃないかと思います)。
で、残りのシーンは基本この二人のイチャコラ二人芝居(勿論、アメリカ国内で別取り)なので、お話に深みも広がりもありません。

このアメリカ人が何で日本にいるのかと言うと、この人「塩水浄化」の研究者で、日本の孤島(島なのかよ。日本のチベットどこ行った?)にある珍しい塩水湖に実験に来ていたんですね。
で、湖に実験用試薬を撃ち込んだら湖底に眠っていたバランが「何してくれてんねんゴラ」と出てきちゃったという…。
因みに試薬打ち込んでいるのは自衛隊です(なんでやねん!)。オリジナルでひとしきり暴れて湖底に戻ったバランを誘い出すために水に溶ける特殊爆薬を撃ちこむシーンが使われています。
あと、本編中はオリジナル音声が残っちゃっている場面を除いて「バラン」「バラダギ」の呼称は一度も使われておりません。
では、彼らはバランの事を何と呼んでいたか?
「オバケ(OBAKE)」です。
え、オバケ? それってお化けの事? タイトルに偽りアリじゃございませんか。
クライマックスも順番が滅茶苦茶。
オリジナルの流れは、
- 海を渡って東京に現れたバランに特殊火薬を込み込んだトラックを寄せて爆発させますが効かず。
- 爆撃機の攻撃も効かないので、照明弾に時限装置付きの特殊爆薬を括りつけヘリからパラシュートで散布、光るモノを食べる性質をもったバランがこれを飲み込み(全2発)、1発が爆発しますが倒れず。
- 踵を返して海中に没した所で2発目が爆発(何故かこれだけすげー威力で機雷の資料映像のような水柱が立つ)して、ついにお陀仏
なのですが、こちらは、
- 上陸して、ただの照明弾呑み込んで、
- 海に逃げようとしたところにブラッドリー司令が作った試薬使った(という設定の)爆弾(ケミカル・ウェポンだ!)詰め込んだトラック寄せて爆発させますが、致命傷にはならず。
- そのまま海に消えてTHE END(つまり倒していない)。
海に向かっている映像に上陸時の画を繋いでいるので不自然極まりありません。
まあ元々アメリカのテレビ局(AB-PTピクチャーズ)からの依頼で「1話30分で全4話」(利益確保のためにモノクロ撮影)という建て付けだったものが、AB-PTの倒産で米国資本引き上げ、途中から「国内劇場公開」に軌道修正、併せて画角もテレビに合わせたスタンダードサイズからシネマスコープへという「聞いてないよ!」の波状攻撃(本多監督激怒り)だったそうなので、オリジナルの出来に関しては情状酌量の余地が…ありま…ない?
このすったもんだの後にクラウン・インターナショナル・ピクチャーズがアメリカでの劇場配給権を獲得し(1962年)、完成したのがこの「Varan The Unbelievable」(何か「バラン信じらんなーい!」とかギャルっぽく脳内再生しちゃいますね)。
オリジナルの方は別冊宝島「怪獣学入門」で赤坂憲雄氏が「バランとラドンは、なぜ滅ぼされるか? まつろわぬ民の末裔たちの反撃」なる考察を展開しています。興味のある方はこちらも。
おまけ
米国版ではバランの華麗なる飛翔シーンがカットされています。今一度その雄姿を。

★オリジナルの確認はこちらから。
★米国版特撮改竄と言えばまずはこれ。
★実はこちらも結構な改竄が施されておりました。
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