
彼には自分の決まりがあった。
決まった時間に家を出て、
決まった時間に店(パン屋)を開け、
決まった年代、決まったタイプの少年少女に目を付け、
決まったやり方で家に運び、
決まったやり方でいたぶり、
決まったやり方で…処理した。
彼…榛村大和(はいむらやまと)。
23人の少年少女と、ひとりの成人女性を殺害した容疑で逮捕・起訴されたサイコ・パス。

筧井雅也(岡田健史)は大学生。全寮制の進学校に受かりましたが結局入れた大学は東京のFラン(の法学部)。
祖母の葬儀で帰省した折りに見つけた一通の封書。
差出人は高校受験のため塾通いをしていた中学時代に通っていたイートインのあるベーカリーRochelleの店主、榛村大和。
既に一審で死刑が確定している榛村は拘置所で控訴審の準備中。
『君に頼みたい事があってこの手紙を書きました。よかったら、一度会いに来てもらえたら嬉しいです』
面会に訪れた雅也の前に現れた男は「ドクトル・マブゼ」「CURE」の間宮邦彦に連なる「人誑(たら)し」の悪魔でした。
「死刑にいたる病」(2022年/白石和彌監督)
榛村の頼み、それは冤罪の立証。立件された9件の殺人の内、最後の1件は自分の仕業ではない、そう主張し続けて来たが誰も信用してくれない。
何とか真犯人を見つけてくれないか。
幼少期から父に疎まれ続けた雅也にとって、親身に接してくれる榛村のいるベーカリーは一種のセーフゾーンでした。
戸惑いながらも榛村の依頼を受けることにした雅也は、担当弁護士を訪ねて全ての事件と裁判の経緯をトレス。
弁護士事務所のバイト(身分はその通りだが名刺は偽造)として、関係者やご近所さん、榛村の過去を知る人たちに接触して聞き込みを。
浮かび上がる榛村の人間性。吸い込まれるような瞳で相手を見つめ、無防備な部分・守りたい部分に見つけ、かけて欲しい言葉を与え、存在を肯定して時間を掛けて信頼関係を構築し、その頂点で想像もしない絶望と苦痛を与えて殺す。
人誑(たら)しの能力は殺害候補者(真面目で大人しく自己肯定感が希薄な中高生男女)以外にも。
『こう言っちゃなんだけどな、俺ぁあの人が今警察から逃げてきて“匿ってくれ”って言われたら、匿っちゃうかもしんねぇなぁ。そら孫は絶対に近づけねえよ。…俺あの人、嫌いじゃねえんだよな』
榛村大和を演じる阿部サダヲがこれまでのイメージを覆す二面性キャラを好演。

この監督、役者リニューアル機能を持っています(「凪待ち」の香取慎吾とか)。
榛村の拷問シーンが(洋画ホラーとか三池作品観慣れた人にはヌルいですが)結構エグイ。

爪を剥ぐ、眼を抉る、耳を削ぐ(直接描写があるのは爪だけ)。白石監督の名刺代わりですね。
桜の舞い散る中、剥いだ爪を用水路に撒く姿は詩的ですら。

ただひとり「榛村のルール」から外れた成人女性の殺害。その有罪の決め手になった目撃者の証言。誰かが嘘をついている。
雅也が辿り着いた真実、それは本当に真実か。実は関係者全員が榛村の手のひらで踊らされていただけなんじゃないか。
接見室には透明プラスチックの仕切り板があり、榛村と雅也が物理的接触をすることはできないのですが、榛村が雅也の心に入り込もうとする時、この物理的障害をたやすく乗り越えて来る映像表現がみごとです。

本作で一番印象深かったのは雅也が待つ接見室に向かう途中の榛村と刑務官のやりとり。
最初はやたら榛村に厳しく当たっていた刑務官がいつの間にか敬語を(榛村がお薦めした文学本が刑務官の娘に好評だったらしく、プライベートに打ち解け合っている)。挙句、面会時間の延長まで(榛村に促されるまま)認めてしまう程に…。

うわあ、完全に篭絡さとるやないか。
これが「人誑し」の力なのか。
★ご参考~人誑しあれこれ。
★白石監督の役者再生工場。
★本日のTV放送❶【13:40~テレビ東京】
★本日のTV放送❷【19:00~BSテレ東】
★本日のTV放送❸【21:00~BS-TBS】