久々、ページを繰るのがもどかしいほど面白いルポルタージュです。
「完本 1976年のアントニオ猪木」(柳澤健・著)
1976年、アントニオ猪木が演じた“異常な”4試合。
ウィリアム・ルスカ戦、モハメド・アリ戦、パク・ソンナン戦、そしてアクラム・ペールワン戦。
“プロレス者”なら避けては通れない「歴史」。様々な憶測と伝説を纏った「神話」。
著者は我々が認識している「事実」をひとつひとつ検証し、解体し、虚飾を取り払った後に「真実」だけを拾い集めて再構成していきます。
スリリングで衝撃的(特に対アリ戦の真相は猪木信者にはちょっと酷)。プロレス免疫のない人は読禁です。
にしても著者の語り口の巧さよ。
「なぜプロレスラーである猪木が、ボクシングの世界チャンピオンに挑戦しなければならなかったのだろうか」
「生涯の敵、ジャイアント馬場に勝つためである」
「この時初めて、馬場は自らを脅かす者の足音を聞いた」
「神風は吹いたのである」
「馬場はついに切り札を出したのだ」
歯切れがいい。リズムがある。翻訳本は日本語としてのリズムが滅茶苦茶だからどうしても読む気になりません。
ついでに言えば「ビジネス本」は文痴の極み。あんなもの読んでたら馬鹿になります。
「完本」の由来は大幅な加筆(初出は2002年1月のナンバー誌)と「アントニオ猪木が語る1976年」の追加。
特に猪木のロング・インタビューは画竜点睛を欠いた感のあった初出原稿を補完して余りあります(しかも良く読めば物凄い事言ってる)。
493ページ一気読み。文春文庫。800円。プロレス者は必読です。