『協会は馬鹿だ。ワインの在庫が400樽だと! あと4ヶ月で飲みきれる訳ないじゃないか!』
これが本当の尊厳死かもしれません。
「渚にて」(1959年/スタンリー・クレイマー監督)
第3次世界大戦勃発。北半球死滅。唯一無傷で残ったメルボルンに死の灰が届くまで5ヶ月足らず。
放射能を防ぐ手立てはなく、被爆の症状を止める薬もありません。あるのは全てを終わらせる薬だけ。
アメリカに戻れなくなった原子力潜水艦艦長タワーズ(グレゴリー・ペック)と飲んだくれの美女イモラ(エヴァ・ガードナー)、愛妻家の大尉ホームズ(アンソニー・パーキンス)とシニカルな科学者ジュリアン(フレッド・アステア)。
彼らの、そして人類の最後を静かに見つめたデストピア映画の名作です。
生の全てを拒絶する無人のサンフランシスコ。やたら饒舌な凡百の反戦映画がこの絵一枚で吹き飛ぶでしょう。
死の目前で大枚はたいてフェラーリ買い込み、在庫僅かなガソリン詰め込んでレースに出るアステアが粋(その美学をビタ一文理解できないガードナーも素敵)。
しかし、人はかくも粛々と死(滅亡)を受け入れられるものでしょうか。
原作はネヴィル・シュートですが、もし、同じテーマの小説を西村寿行が書いたらどうなるか。
考えただけで海綿体が充・・・あいや、背筋が寒くなります。