ストーリーと呼べるものはありません。
記憶の断片を時間軸にとらわれる事無くコラージュした心象念写が102分。
退屈? とんでもない。
「鏡」(1974年/アンドレイ・タルコフスキー監督)
少年時代の思い出。焼けた納屋。髪を洗う母。軍事教練。失踪した父。母と似た妻。第二次世界大戦。原子爆弾。文化大革命。息子。離婚。
カラーとセピアとモノクロと。
お話を紐解くヒントはあります。冒頭の暗示により吃音が治る青年、ダ・ヴィンチの「聖母子」、バッハの「ヨハネ受難曲」、消えた老人とカップの痕跡、主人公を産む前の若き母の傍らを少年時代の主人公と妹の手を引いて通り過ぎる年老いた母。そして鏡。
でもまあ、そんな深読みは後回しにして、まずはタルコフスキーの映像に溺れましょう。
母が髪を洗い、水の滴りと共に崩れ落ちる天井のイメージに痺れましょう(ひょっとして、鈴木清順の「陽炎座」って、この映画の影響下にあるのか?)。
画面から「風」を感じる事の出来る映画って結構少ないです(「地獄の黙示録」のイントロくらいしか思いつかない)。
タルコフスキーの個人的記憶のかけらを束ねた圧倒的なビジュアルをご堪能ください。
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