『もう私の映画では誰も怖がらない。見ろ!実社会の方がよっぽど恐怖に満ちている!』
老境で尚恐怖映画に出続ける事に嫌気が差して引退を決意したベテランホラー俳優バイロン(ボリス・カーロフ!)。
何不自由のない中流家庭で育ちながら大量殺人鬼と化す好青年ボビー。
出会うはずの無い二人でしたが・・。
「殺人者はライフルを持っている」
(1968年/ピーター・ボグダノビッチ監督)
ボグダノビッチ監督のデビュー作です。聞くところによると、師匠コーマンからの、
「いやあ、契約上カーロフをあと二日使えるんだけどさ、カーロフの出番20分と俺の“古城の亡霊”20分とあと何か適当に50分撮って繋いで90分の作品にしてくれたら監督やらせてやるぞ」
という実に有難くない条件付オファーだったそうで。
ところがボグさんは、「なに、50分は何撮ってもいいのか!よし、受けた!」とポジティブ・シンキング。
2年前に起きたテキサスタワー乱射事件のチャールズ・ホイットマンとホラー俳優を交錯させるというウルトラCな脚本を書き上げてしまいました。
にっかつ黎明期の「10分に一回SEXすりゃ後は何撮ってもいいんだな!」という若手監督のハングリー精神に近いものを感じますね(笑)。
犯行直前に妻と母を殺している事や頭痛を訴えている(ホイットマンは脳にくるみ大の腫瘍があった)あたり、事件の背景を忠実になぞっています。
惨劇の舞台はタワーではなくドライブ・イン・シアター。スクリーンの裏から車の中を狙い撃ち(怖ぇ!)
皆、車という個室の中にスピーカー引き込んでいるので、“スナイパーがいる”という情報がなかなか伝播されない、というのは良く出来たアイデアだと思います。
で、肝心の評価なんですが、傑作と持ち上げる程ではないかな、と。
犯人のボビーが、常にチョコバーかじっている坊やで、ホイットマンの“海兵隊あがりのプロフェッショナル・スナイパー”の雰囲気が全く無い(銃とかすぐ落としちゃうし)のが一番の不満。
無茶ぶりな製作条件を知恵と機転で乗り切ったのは天晴れですが、やはりホイットマンものとしては余韻も含めて「パニック・イン・スタジアム」系の方が性に合っているようです。
★ご参考