テンポが悪いのタルいの地味のと世評は芳しくないですが、敢えて推します。
不動産で言えば“駅至近・南向き・格安。自殺者アリ”な感じの佳作です。
「風の惑星/スリップストリーム」
(1989年/スティーヴン・リズバーガー監督)
文明が死に絶え、谷を渡る風を掴むグライダーだけが交通手段となった未来の地球。
岩肌むき出しの荒野を滑空するグライダー。この“風を感じる”オープニング・カットだけでも合格です。
乗っているのは刑事タスカー&エリアル(マーク・ハミル&キティ・オルドリッチ)。
お尋ね者バイロン(ボブ・ペック)を捕縛しますが、賞金稼ぎマット(ビル・バクストン)に身柄を横取りされて再追撃。
・・と書くと近未来ハードボイルドアクションのように聞こえますが違います。
完全になれない人間と、人間になれないロボットと、文明を否定した風の谷の住人と、文明に固執し閉塞する文化人が織り成す異文化交流セミナーです。
マーク・ハミルをステレオタイプな悪役にしなかった為、各キャラと観客が等距離になり、物語に深みが生まれました(前にも書きましたが、「スターウォーズ」以外の作品にでマーク・ハミルを見つけるとちょっと嬉しい)。
とは言え、押さえるべきカットを押さえていなかったり、キャラの深堀を怠ったりと脚本・演出双方の怠慢が目立つのも事実。
ちゃんと撮れば「ブレードランナー」のような「エルトポ」のような「地獄の黙示録(特別完全版)」のような、ゆったりまったりの中に時間の深淵を覗く哲学SFになったかもしれません(褒めすぎか?)。
深夜にスモーキーなお酒(アイラとか)と合わせて観ると“いい感じ”だと思います。