『吉野、君も科学者なら俺の話を聞け』
『科学者? 科学者が何をした? 原爆や水爆を発明しただけじゃないか』
『そうかもしれん。しかし、君のやり方は・・』
『間違っていると言うのか? 間違っているかもしれない。しかし、俺がやらなかったら一体誰が京子の白血病を治してくれた? 日本の国がか? それとも原爆を落したアメリカがか? 誰も何もやってくれはしない』
『だからと言って罪もない娘を・・』
『じゃあ京子には罪があったって言うのか? まだ母親のお腹の中にいたのに。誰だい、誰があの子を犠牲にしたんだ? 君に答えられるか?』
『吉野くん・・やっぱり君は・・間違っている』
科学の力で犯罪者検挙に協力する者と、科学の力で妹の病気(体内被曝による白血病)を治すため人体実験を繰り返す者。
どちらも科学者ですが、ひとりは警察の協力者、ひとりは犯罪者。
全エピソード中、最も不毛感、索漠感に満ちた回ではないでしょうか。
「怪奇大作戦/第5話・死神の子守唄」
(1968年10月13日放送/実相寺昭雄監督)
歌手・高木京子の歌う「死神の子守唄」の歌詞の通り展開する連続美女冷凍殺人事件。凍りついた死体からは放射能が。
犯人は京子の兄・吉野貞夫(草野大悟)。
体内被曝で白血病となり、余命幾ばくもない妹のために“スペクトルG線”実用化の人体実験を行っていたのです。
スペクトルG線が何かとか、放射に必要な原水爆級の熱エネルギーを超低温エネルギーで代替する事の意味とか、そんな事はどーでもいい。
何故、死神の子守唄の通りに人を殺すのか(すぐ足がつくじゃないか)、なんて事もどーでもいい。
大事なのは、放射能を浴びて死にかけている妹を救うために冷凍殺人を繰り返す吉野を、同じ科学者として牧(岸田森)が論破できなかったという事です。
無力感に打ちひしがれた牧の表情こそ本作のテーマだと思います。
♪10人の娘が旅に出た。10人の娘が旅に出た。
♪滝にうたれて1人目が死んだ。9人の娘が旅をした。
♪橋から落ちて2人目が死んだ。8人の娘が旅をした。
♪崖から転げて3人目が死んだ。7人の娘が旅をした。
♪熊に食われて4人目が死んだ。6人の娘が旅をした。
♪蜂に刺されて5人目が死んだ。
『死にたくない』
自らに冷凍銃を向けた京子は凍りつき、斜面を転げ落ち、尖ったフェンスに貫かれ(蜂に刺されて)息絶えました。
丸腰・無抵抗の吉野をジュラルミンの盾で武装した大人数の機動警察が催涙弾と棍棒でボコボコにするシーンに左翼脚本家・佐々木守の本領が発揮されています。
(封印するなよ、の願いを込めて・・)
※参考:「闇から闇へ。 怪奇大作戦/第24話・狂気人間」→2010年3月28日