デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

不思議時空クロサワ。 蜘蛛の瞳

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同年に撮った「蛇の道」の姉妹編なのですが、お話の構造は前年の傑作「CURE」に近い・・と言うか同じアプローチを異なる視点でトレスした双生児のようです。

CURE以上に観る人を選ぶと思いますが、嵌ると抜け出せません。

ギリギリの予算ゆえ、監督のカラーが剥きだしになったクロサワ・ワールドです。

蜘蛛の瞳(1998年/黒沢清監督)

一人娘を誘拐・殺害された新島(哀川翔)は5年掛けて犯人を見つけ嬲り殺しに(でも多分人違い。誰でもよかったのかもしれません)。

成すべき事を成し遂げて無気力化した新島の前に高校時代の友人・岩松(ダンカン)が。

『新島!お前新島だろ? 俺だよ俺、岩松。お前仕事うまくいってないだろ? なぁ俺の仕事手伝ってくれよ。お前しかいないんだよ』

岩松の仕事は表向き貿易会社。本業は殺し屋。

指令を出すのは依田(大杉漣)、その上のボスは日沼(菅田俊)。彼らがどういう組織の人間で何を企んでいて、何が目的で人を殺し続けるのかは全く明らかにされません(完全なマクガフィン)。

流れのままに組織に身を投じ、人を殺し続ける新島にボスが直接命じた次のターゲットは岩松。

平凡な(あるいは倦怠に支配された)日常から、境界者の手引きによって“向こう側”に行ってしまう主人公。互いに不安定な精神状況の上で微妙なバランスをとっている夫婦。

CUREとの共通点です。境界者を手にかけ、最後に台車(?)で運ばれてくるあるモノとすれ違う構図まで。

間の取り方とか、空間の切り取り方とか、キタノ映画を意識しているようにも見えますが(役者がダンカン、大杉、寺島進とかなので余計)、空気がクロサワ。

食事シーン以外では決して向き合わず、その時ですら視線は絡まない夫婦の距離感、こういう空気描写はクロサワの独壇場です。

※参考:「人の心に深入りするな。手遅れだ!CURE」
     →2008年8月27日

    「ヒント?撒き餌? CURE(のチャプター・タイトル)」
     →2009年6月11日