昭和34年。60年安保前夜。日本はまだ、敗戦国。
覗いてはならない闇がありました。
「日本列島」(1965年/熊井啓監督)
米軍基地CID(憲兵隊私服刑事部←軍人絡みの犯罪を調べる所)に新任中尉ポラックが着任。彼は通訳の秋山(宇野重吉)に個人的な調査を依頼します。
『昨年変死したリミット曹長は以前私の部下だった。しかし、彼の死に関して曖昧な記録しか残っていない。真相を解明してほしい』
変死体として発見されたリミットの死体は司法解剖前に米軍が強制回収。リミットは何かの事件の糸口を掴んだが、全貌発覚を恐れた何者かに抹殺されたらしい。
秋山は警視庁の黒崎(鈴木瑞穂)、新聞記者の原島(二谷英明)らと共に真相究明に乗り出しますが・・。
リミットの最後の言葉は「ザンメル」「柄沢に殺される」。
ザンメルは人の名前ではなく、ドイツ製の高級印刷機械でした。ザンメルは米軍が徴発。同時に日本人印刷技師が失踪(娘役に芦川いづみ。可憐!)。彼らの目的は?
次々に消されていく関係者。米軍にすら圧力をかけられる組織。柄沢とは何者?
米兵に妻を殺された過去を持つ秋山を演じる宇野重吉が素晴らしい。表面的には枯れた、しかし内側に漲る強靭な意思。
その意思を余裕で跳ね返す柄沢(大滝秀治!)の存在感。出番少なく台詞も無い、にも関わらず不気味を煮〆て捏ね上げたような威圧感。
警察・米軍双方に圧力がかかり、捜査は中止。何故だ! 問い詰める秋山とポラック中尉の会話は英語なので当然字幕がつきますが、ポラックが放った一言、『Get Away Jap!』にだけは字幕がついていませんでした。
非業の死を迎えて敗れ去る人々、そして決して屈しない諦めざる人々。
国会議事堂の黒い威容をバックに歩き出す芦川いづみに監督の決意が現われています。