デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

福島、原発、地元利権。 原子力戦争 LOST LOVE

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とある施設の正面ゲート。散歩のような出で立ちで中に入ろうとする原田芳雄

“撮影許可は取っているんですか? なければ帰ってください”

原田に、ではなく撮影しているカメラに向かって寄ってくる警備員。

構わず中に入ろうとする原田。制止する警備員。詰め所のような所に入っていく原田。

“ここは事務所ですよ。不法侵入ですよ。出て行ってください”

カメラに手を掛け強制退去させようとする警備員。

フィクションであるはずの映画で撮影カメラの存在をアピールするのはご法度。明らかな違法撮影。しかも本筋とは関係ない不要なカット。それでも入れねばならなかった。

場所は福島第一原子力発電所

原子力戦争 LOST LOVE」(1978年/黒木和雄監督)

実家に帰ったまま戻らない女を捜して漁村を訪れたヒモ、坂田(原田)。

小さい町なのに何故か口を噤む人々。交番の警官さえも迷惑顔。

女は数日前に心中していました。相手は原子力発電所の技術者。新婚ホヤホヤの妻帯者。

隠蔽された事故、偽装された心中、原発利権でズブズブの町…。

サスペンスの材料はテンコ盛りですが、お話は歯がゆい程に核心に迫りません。

昔も今も原発問題はタブーだ、という事でしょうか。霧を晴らす事無く視界不良のまま幕を閉じる(閉じざるを得ない)隔靴掻痒なエンディング。唯一の抵抗が福島第一ゲリラ撮影だったのでしょう。

八方塞りのフィクションが一点突破のノンフィクションにスイッチした瞬間。それでもゲート前での門前払い。監督の索漠とした思いが伝わってきます。

「分かってください、この町はもう原発利権に抗すべくもないんです」

これが山本薩夫あたりなら、もっと懐を抉るような直球硬派な作品になったかもしれませんが、これが黒木和雄の(あるいはATGの)限界なのかもしれません。原作者(田原総一郎)の感想を聞いてみたいものです。

心中相手の妻に妖艶ファム・ファタール山口小夜子(ちょいエロ担当)、心中した女の妹に風吹ジュン(ちょいロリ担当)、港町に左遷されて本社返り咲きを狙うも最後には長いものに巻かれる新聞記者に佐藤慶

利権を守ろうとする人=住民全て、という手の施しようのないオチに監督の意地を見ます。