大技・荒業連発。関係性のファンタジー。 ちゃんと伝える
“わが父、園音己に捧ぐ”
“難病モノ”という手垢のついた商業主義的ジャンルでありながら、極めて私的な、そして現実遊離した“関係性のファンタジー”。
「ちゃんと伝える」(2009年/園子温監督)
厳格だった父が癌で入院。父との関係性を修復するために日々病院を訪れる息子。しかし、息子の体には父より重篤な癌が。
「それって、親父より僕の方が先に死ぬかもしれないって事ですよね? 親父は俺の死を看取ってから死ぬって事ですか?!」
1日でいい、父に先に逝って欲しい・・なんと言う逆説的な渇望。
本作には難病モノの基本骨子である“闘病のプロセス”がスッコーンと抜け落ちています。
病気は関係性を表す単なる記号。
父(奥田瑛二)はベッドに寝ているだけで治療の気配無し。息子(AKIRA)は末期癌を告知されながら、その後治療・投薬の描写無し(完全投げっぱなし)。恋人(伊藤歩)は癌を告白されながら「どこ癌?」とも聴かず癌は癌で終了・納得。
AKIRAは末期胃癌のくせに大福喰らう荒業を披露、奥田瑛二に至っては“死後硬直しない”という大技まで繰り出す始末。死体すらも記号化。
病人よりも病気が主役になっている昨今のお涙頂戴モノに対するアンチテーゼと見る事もできますが、贔屓の引き倒しのような気もいたします(笑)。
母役に高橋恵子。周りは、でんでん、吹越、諏訪などいつものメンバーで安定感は抜群。
AKIRAは走るフォームが綺麗だな。
※参考:「異形の純愛ウェポン。 愛のむきだし」→2010年11月8日
「人骨完全燃焼レシピ。 冷たい熱帯魚」→2011年9月2日