デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

世界一幸せなアル中患者。 酔いがさめたら、うちに帰ろう

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『大丈夫、まだ死なないよ』

永作博美サイバラを演じるには線が細いかと思いましたが、最初のこの一言で「いける」と確信。

元戦場カメラマン、ジャーナリスト。躁鬱・アル中・末期癌の三冠王鴨志田穣の闘病記録。

「酔いがさめたら、うちに帰ろう」
(2010年/東陽一監督)


鴨志田(劇中では塚原)を演じるのは浅野忠信。根はいい奴なんだけど、表層的には駄目駄目の金太郎飴のようなカモちゃんを飄々と演じています(生きるか死ぬかの瀬戸際でもカレーは大事)。

骨子は原作にほぼ忠実でいながら、要所要所に挟んでくるオリジナルの視線が秀逸。

人前では決して泣かない幼い娘とか、卑怯千万ですが、やはりツボ。

東監督は編集も兼任。巧いなあ、流石年の功(失礼!)。

『悲しみがあんまり深くなると、何だか体中が悲しみで一杯になるでしょ。そうなるともう分からなくなる。体を満たしているものがたとえ悲しみであっても、とにかく体は満たされているわけだから、もう悲しいんだか嬉しいんだか分からなく…』

『あまり同感したくない話ですね』

『同感されたくないんです、誰とも』

このサイバラ(劇中では園田)と医者の会話は脚本(監督が執筆)のオリジナルだと思いますが、ああ、分かっているんだなぁという感じがします。

ラスト近くの体験発表(アル中病棟の入院患者が退院直前に自らの生い立ちを反省と共に語る)は、原作ではもう少し長く、読みどころとなっているのですが、映画的にはこのくらいの尺が限界という事だったのでしょうか。

『生きていた方がいいよ。どんなに悲惨な人生でも』

鴨志田穣、2007年3月20日、腎臓癌にて没。42歳。

※参考:「どんな恋でも…。パーマネント野ばら」→2011年8月6日