(日本語のダイング・メッセージ)“助けてぇ。私は死んじゃったぁ。早くぅ、早くぅ”
『日本語だろ。訳してくれ』
『…“私は肉体に縛れない。境界は存在しない。魂は生まれも死にもしない”…仏教の教えを唱えている』
“おうしょくぅ…おうしょくぅ”
『黄色? 彼はイエローだと繰り返している』
なあ、アルジェント、これが日本でも公開されるって事は考えなかったのか?
「ジャーロ」(2009年/ダリオ・アルジェント監督)
ジャーロ…イタリアにおけるサスペンス&ミステリーを指すジャンル用語(本来の意味は黄色。このジャンルのペーパーバッグの表紙が黄色だった事に由来)です。
ジャーロと言えばダリオ。ダリオと言えばジャーロ。アルジェントがこれをタイトルにした映画を撮ると言う事は、黒澤明が「時代劇」というタイトルの、あるいは宮崎駿が「ロリコンアニメ」というタイトルの映画を撮る事と同義。
期待もハードルもアゲアゲです。
舞台はトリノ。タクシー運転手による連続外国人美女誘拐惨殺事件。さらわれた妹を取り戻すために奔走する姉リンダ(エマニュエル・セニエ)と猟奇専門警部エンツォ(エイドリアン・ブロディ)。
…さて、困ったな…。
ジャンルとしてのジャーロと、黄疸で肌が黄色くなった犯人ジャーロと、犠牲者となってダイング・メッセージを残した日本人(黄色人種)と色々掛けているのは分かるのですが。
“そこに注射針刺しますか?!”なカット(写真参照)など“らしい”絵柄もあるにはあるのですが、何と言うか、実にその…普通。火サス。
エマニュエル・セニエ(ロマン・ポランスキー妻)も、「ナインスゲート」の頃はまだ美少女の面影がありましたが、すっかり劣化してしまって(がっしりした骨格だけが昔のまま)。
エイドリアン・ブロディの無駄な頑張りも果たして必要だったのかどうか(ジャーロ役はByron Deidraとクレジットされていますが、文字を並べ替えると…)。
脚本がいい加減なのはいつもの事ですが、やはり無駄なタメ、ケレン、意味不明なカットと大仰な音楽、そして“だって、この画が撮りたかったんだもん”なゴアシーンのつるべ打ちがあってこそアルジェント映画です。
とは言え、作られれば観てしまうのがファンの業。たとえグダグダユルユルであっても、アルジェントには死ぬまで撮り続けて欲しいものだと思います。