デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

再現不能。プロジェクトA子[北米版DVD](の音声解説)

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“再現不可能”は「西部警察」の枕詞(?)ですが、アニメの世界にもこれに相当する作品があります。

後に第一線で活躍する若手アニメーターかき集めて、やりたい放題し放題。

リスペクト×オマージュ×模倣の嵐。「好きなもの全部ぶち込みました。え、版権って何ですか?」な完全放し飼いが産み落とした奇跡の1本。

「プロジェクトA子」(1986年/西島克彦監督)

謎の隕石が都市部を直撃するという大惨事から16年。

復興を果たした街の高台にそびえる女子高・グラビトン学園にやって来た二人の転校生。

怪力(などと言うレベルではありませんが)の持ち主・摩神英子(A子)と、天然ボケ(などと言うレベルではありませんが)の寿詩子(C子)。

しかし、クラスにはC子に熱い視線を投げつける大富豪の娘・大徳寺美子(B子)が。

C子を我が物にせんと策略を巡らせるB子。遂にA子とB子がタイマンで対峙した時、宇宙人の超巨大戦艦が頭上に迫っていた!

国内版DVDは事実上入手不能(BOXの新品が12万越。中古でも最安値4万弱)なので、北米版(劇場版1作目単品。1424円!)を取り寄せました。

特典として作画監督森山ゆうじ氏の音声解説が付いているのですが、これがお宝エピのつるべ打ち。

押井守の降板で完全にやる気をなくしていた「うる星やつら」スタッフが、“このままじゃ終わらんぞ。やりたい事やるんじゃ”とばかりに結集したのが事の発端。

脚本のクレジットはあるものの、実態は西島監督と森山氏が画コンテの応酬をしながら、その場その場のノリ(だけ)でストーリーを組み上げるという香港映画技法。

いちいち挙げていられない夥しい引用の数々は、是非各自の目でお確かめください。アニメファンなら膝叩き続けで歩行困難になると思います。

面白いのは、本作が以降の作品に与えた影響。

謎の隕石衝突から16年後なんてまんまセカンド・インパクトですし、B子の必殺技「暗黒ジャコビニ流星ラッシュ!」(元ネタはアストロ球団のジャコビニ流星打法)は後に「トップをねらえ!」でユングが「ジャコビニ流星アタァッ~ク!」として換骨奪胎(作画で摩砂雪氏はじめガイナックスメンバーが多数参加)。

本作に関して宮崎駿が「女の子が銃を持って飛行機の上を走るような程度の低いものを作ってはいかん」と発言していたそうですが、半年後、ご本人が“下半身丸出しの女が機関銃持って飛行機の中を走り回る”作品を撮っています(「死の翼アルバトロス」の事ですね)。

マクロスのスタッフも大挙参戦しているようで、当然ミサイルの中には缶飲料(今回はペプシ)が。

絵柄・設定のみならず、キャラまで総動員(うる星、北斗、マクロスハーロック、幻魔、空飛ぶゆうれい船 e.t.c.、e.t.c.)。

元々は「くりいむレモン」の新作として企画された名残か、A子は登場シーンでモロ乳露出、C子は「いやあ、犯されるぅ!」などというあられもない台詞を口走る始末。

今なら、メーカーが抗議し、プロデューサーが引き、自粛の名の下に全てなかった事にされてしまうでしょう。

製作中に起きたチャレンジャー号爆発事故の映像も作画の参考にしているとの事。今なら爆発シーンそのものが自主規制されてしまうのではないでしょうか。

表現に狭量な足枷の無かったボヘミアンな時代の象徴です。