
「面白い。何だ、生きてりゃこんな楽しい事があるんだ」
ボコボコに殴られた上に腕を折られ、アキレス腱を切られ、全身血まみれで放り出された男の台詞とは思えません。
歴史に名を刻むであろう完全無欠の殺人鬼、ギョンチョル(チェ・ミンシク)のお出ましです。
「悪魔を見た」(2010年/キム・ジウン監督)
アメリカ映画の殺人鬼には何だかんだ言って“哲学”があります。「セブン」のジョン・ドー、「羊たちの沈黙」のレクター博士&バッファロー・ビル…。
本作の主人公ギョンチョルに哲学はありません。男を見れば殺し、女を見れば襲い(そして殺し)。一応、女は作法に則ってバラしたり、下着や靴はコレクションしたりなどのこだわりはあるようですが、常にそうとは限りません。
狂った映画には狂ったユーモアがつきものです。
ギョンチョルが拾った流しの乗り合いタクシー。後部座席にいる先客がタクシー強盗だと野生の勘で察したギョンチョルは走行中にも係らず、助手席から運転手と後の先客をブッチャーの地獄突きのような早業でメッタ刺し。
当然、車は蛇行して林に激突。そのまま死体を降ろすと悠々とタクシーで殺人中毒のお友達のところへ。
私の一番のお気に入りは、殺人中毒のお友達が、復讐者にアイスピックで片手をテーブルに縫い付けられるシーン(写真2枚目)。
意を決してピックを握り、気合もろとも引き抜こうとしたら“ポン!”という漫画のような間抜けな音がして柄の部分がすっぽ抜け。後には掴み所の無い棒だけが…完全にギャグです。
血まみれシャツに血まみれパンツにコートという正装で、血まみれ包丁片手に警察署前の大通りで両手を挙げて見得を切る様はまさに男の花道(写真下)、よ、人殺し!
婚約者殺された男に何度リンチに遭っても、挫けず折れず、反省も改心もせず、尾行されていても隙あらば殺し、犯し、バラし、先手をとって裏をかき・・サイコパスの鑑です。
演出のテンポがやや冗長なのが玉に瑕ですが、まずは新たな偏執狂の誕生を祝いましょう。
にしてもミンシク兄ぃ太ったなあ。役作りで太った…んじゃないよねぇ。ソン・ガンホと言い、「シュリ」に出ていた人は膨らむ傾向にあるのでしょうか(ハン・ソッキュはまだ痩せているのか?)
※参考:「変身前ソン・ガンホ。 シュリ」→2011年6月3日