連続殺人事件の犯人の精神鑑定のため病院を訪れた犯罪心理学者、という構図から「セブン」+「羊たちの沈黙」という言われ方をされているようですが、そいつは表層的過ぎやしないかい。
イメージ的には「ユージュアル・サスペクツ」の器に「救命士」と「マニアック」を突っ込んだ感じ…がいたしました(これはこれで表層的だな…)。
「アグリ」(1997年/スコット・レイノルズ監督)
犯行履歴に全く類似性・関連性を持たない連続殺人鬼サイモン。
サイモンに指名されて彼の精神鑑定をすることになった犯罪心理学者カレン。
カレンはサイモンの心の闇を暴こうとしますが…。
サイモンの過去と現在を縦横無尽にシャッフル(時には過去に現在が混在)する編集が素晴らしい。
実際には精神病院の一室だけで話が進んでいるのですが、この編集のおかげで飽きることなく(しかも混乱することなく)観る事ができます。
サイモンに命令する第3者の声。「それは誰?」というカレンの問いにサイモンが(カレンの来訪者バッヂに視線を走らせて)「Visitorだ」と応えた時は「おっと、お前はカイザー・ソゼか?!」と思いましたが、そんな単純な二番煎じであろうはずもなく。
我々はサイモンに鼻面掴まれてカレンと共に彼の過去をランダムに反復横跳び。
“アグリ”ってのは、サイモンの中にいるもう一人の自分なのですが、単語としては“UGLY”なんですね。
「アグリー・ベティ」や「コヨーテ・アグリー」の“アグリー(醜い)”です。
どうも“アグリ”ってスタッカートの利いた書き方されちゃうと、馬とか農業とかNHK朝の連ドラとかF1レーサーとかイメージが明々後日の方向に横っ飛びして、サイコ・スリラーとしての風格が伝わってまいりません。
折角、ピージャクの跡継ぎとしてニュージーランドが生んだ逸材(本作は ローマ国際ファンタスティック映画祭脚本賞・主演男優賞受賞)なので、未公開という事も含めてもう少しどうにかしてあげられなかったのかとは思います。