筋立てだけを追えば、リメイクと言ってもいいくらい見事な「ジョーズ」のパクリです。
鮫を猪に、市長を村長に、海開きを週末菜園に置き換えた山の(いや田舎の)ジョーズ。
では、王道の動物パニック映画かと言うと、これが闇鍋。
オフビートと言えばお洒落な感じがいたしますが、なんと言うか“セパタクロー対吹奏楽部対囲碁将棋クラブの異種格闘技戦”のような全方位自分勝手な混沌さが全体を支配しています。
「人喰猪、公民館襲撃す!」
(2009年/シン・ジョンウォン監督)
よくつけましたね、この邦題(英題は「CHAW」。“ムシャっとひと噛み”みたいな感じでしょうか)。
文章の構造だけを見れば「宇宙人、東京に現わる」とかと一緒ですが、“公民館”というスケールが小さいにも程がある単語を大仰に掲げた所が素敵です。流石キングレコード。
本作の特徴は、登場人物が隅から隅まで“何もそこまで…”と思うくらいキャラが立ちまくっている事と、そのキャラが緊迫感の醸成にビタ一文貢献していない事でしょう。
主人公は身重の妻(地味っ娘・眼鏡っ娘で料理最悪)とスーパー・アクティブな認知症の母を抱えてド田舎に左遷された巡査のキムさん(オム・テウン←藤井隆に似ている)。
トラクターの取締りくらいしかやる事はないだろうと思っていたら、着任早々土手でバラバラ死体が。
この(カメラに映る)最初の犠牲者(可憐な少女)が実に悲惨。
動物避けようとして自転車のハンドル切り損ねて土手を転落。携帯でお爺ちゃんに助けを求めるも爺ちゃん酒飲んで爆睡。草むらに何者かの気配を感じた少女が自力で土手を這い上がった瞬間、景気良く車と衝突。運転手は無免許&飲酒運転だったので、まだ息のある少女を土手下にリターン。下では猪が「ありがとう&ごちそうさま」。
ここまで手の込んだ描写にする必要がどこにある?(笑)
後はお決まりのやりとりがあって、雇われハンター軍団による山狩り→見事大猪を退治→一件落着と公民館で猪バーベキューにして大宴会→実はその猪は本丸と番(つがい)のメスで怒り狂ったオスが公民館襲撃。阿鼻叫喚の地獄絵図。
という流れになります。
冒頭で餌に窮した猪が墓を暴いて死体を喰う(人間の味を覚える)というくだりがあります。
この暴かれた墓が急斜面の下にあり、現場検証にきた地元警官が次々と景気良くこの坂を転げ落ちるという身体を張ったネタを披露してくれます。
ひとり転落、まだ笑わないか? じゃ二人、三人。まだ足りないか、ようし、まとめて転げ落としてやる、これでどうだ!
相手が笑うまで同じギャグを繰り返す、というパターンは結構好きなのですが、同時に「ええっと、この映画は全体的にこういうトーン(=コメディ)で行くんですか?」という不安を激しく煽ってくれます。
このコメディ要素(洒落にならない系多し)が邪魔という意見もありますが、本作から黒い笑いを取ったら、ただの動物パニックじゃないですか。
「その描写、本当にいるのか? なくても進行上何の問題もないよな。いやむしろ無い方がいいんじゃないか」なカットの積み重ね(このせいで上映時間2時間越え)こそ、本作最大の魅力です。
猪の異種交配をやったのは日本軍だとかシレっと“何でも悪いのは日本”という刷り込みを忘れないあたりも流石韓国と唸らざるを得ません。
小松方正似な老ハンター、白竜と長州小力を足して割ったような若手ハンター、泉麻人な刑事など脇も親近感沸きまくり。牡丹鍋でもつつきながらご鑑賞ください。
ところで「レイザーバック」は何故ソフト化されないんだ?