あれは洗礼の隠喩だのこれは処女懐妊だのパウロの回心だの、まるでキリスト教の素養がない奴は批判する資格が無いかの如きレビューもあり、それはそれで真っ当な意見のひとつだとは思いますが、敢えて一言言わせて頂ければ、
「渇!」
でございます。
宗教的隠喩も暗喩も作品の出来とは何の関係もございません。そんなものが脚本破綻の免罪符になるのなら脚本家は苦労しません。
「バビロンA.D.」
(2008年/マチュー・カソヴィッツ監督)
近未来。お尋ね者のテロリストとして新セルビアに潜伏中のトーロップ(ヴィン・ディーゼル)が正規のパスポートと引き換えに請け負った怪しい仕事。
それは、モンゴルの修道院から女をひとり、ニューヨークまで運ぶこと。
ワケ有り女(お守り付き)と国境越えと言えば「トゥモロー・ワールド」(雰囲気系)であり、運び屋という意味では「トランスポーター」(アクション系)の亜流という事になりますが、テイストはどっちつかず。
荷物となる少女は、とある新興宗教団体がとある科学者にプログラムさせた遺伝子操作の試作品・・らしいのですが、目的も技術も不明。
奇跡として利用する、という説明はありますが、具体的な活用方法はまるで分からず。
2歳で19ヶ国語を話した、というのはまあ分かりますが、追尾型ランチャーを弾き返す(A.T.フィールドのような結界作って防御する)ってのは、どういう理屈だ?
宗教と関係ない所では、難民船代わりに登場する潜水艦も変。
衛星に探知されないように2分で潜行する(多くの難民が乗りそびれて氷の割れ目のドボン)のは分かりますが、大氷原でディーゼル一行だけ下船出来たのが解せません。
難民船は途中下船可なのか。在来線のように停船ポイントがあるのか?
確かに乗船前にスノーモービルの手配はしていましたが、あれは誰が事前に下船ポイントに持って来たんだ? あの無人偵察&攻撃機には見つからなかったのか?
近未来は現在と地続き。与太話を吹く時は、まず世界観をかっちり作って、観客に余計な疑問を抱かせないのが鉄則です。
本作は中盤から後半が疑問の嵐。
改造人間になったディーゼルが日曜朝の特撮ドラマレベルのビジュアルなのも苦笑失笑腰砕け。
ディーゼルに仕事を依頼するマフィアのボスにジェラール・ドパルデュー、謎の少女の付き人(養母)にミシェル・ヨー、特別ゲストにジェロム・レ・バンナ、そして宗教団体のトップにシャーロット・ランプリング。
無駄に豪華(笑)。アクション・シーンは編集が下手なので、ヨーもレ・バンナも見せ場無し。
そういえば、この監督、「クリムゾン・リバー」でも理屈先行で消化不良な演出していましたね。「ゴシカ」なんかビタ一文記憶に残っていませんし。
相性の悪い監督のようです。