昭和59年4月19日。東京蔵前国技館。
超満員札止め。立錐の余地無し。
猪木率いる正規軍と長州率いる維新軍の全面抗争終着駅は、柔道方式の勝ち抜き戦。
勝敗の鍵を握る出場順が記された紙がウィットネスである野末陳平氏に渡され、それを古館伊知郎が読み上げる。
維新軍は、先鋒・小林邦昭、次鋒・寺西勇、中堅・谷津嘉章、副将・アニマル浜口、大将・長州力という超オーソドック・スタイル。
対する正規軍は何と先鋒・藤波辰巳。どよめく場内。気色ばむ維新軍。
以下、次鋒・高田伸彦、中堅・木村健吾、副将・藤原喜明、そして大将・アントニオ猪木。
試合は藤波が小林、寺西を連覇するも谷津戦でロープに脚を絡ませ、エプロンに宙吊り状態でカウンテッド・アウト。
谷津は高田を下すが木村に轟沈。
浜口が狡猾な駆け引きで木村を制しますが、藤原の無理心中作戦で両者リングアウト(引き分けの場合は両者退場)。
双方無傷で迎えた大将戦。場内釜抜けまくりな大熱狂。
最後は執拗な猪木の卍攻撃に意地でも参ったしない長州を見かねたミスター高橋が実況席の山本小鉄の確認をとってレフェリー・ストップ。全8試合の勝ち抜き戦の幕を下ろしました。
いやあ、久々に見直しましたが、ホント素晴らしい興行でした。
世代抗争ではないので、両陣営の年齢的バランスも良く、皆動きにキレがあります。
個人的ベストバウトは高田対谷津。
高校球児と見まごう高田の初々しさ。目の覚めるようなフロント・スープレックスを放つなど見せ場もありましたが、あらゆる体勢から投げを打つ谷津の(アマレス仕込の)テクニシャンぶりの前に惜敗。
もし、高田にヘビー級の肉体があれば勝負は逆に転んでいたかもしれません。
そして何と言っても古館伊知郎です。脂乗りまくりな実況は見事の一言。マシンガン・トークのように見えますが、きっちり計算された最小限の言葉で構成されています。
流石オリジナル。後の無駄に修飾語を連ねるだけ(しかも滑舌も悪い)劣化コピーアナとは一味も二味も違います。何より原語がビジュアル。
「サソリの猛毒が寺西の五臓六腑を駆け巡る!」
「闘いの大海原に弧を描いた人間橋!」
「空爆か!? 地対空ミサイルか!? 何があるか…
肉体のライブステージだぁ!」
映像は未DVD化。VHSがビデオパックニッポンから発売されていましたが現在は廃盤。
「正規軍vs維新軍 5対5全面抗争」
(全試合収録。87分。定価9,200円)
驚いたことに全選手の入場テーマ曲がライセンスフリーのヘッポコ音楽に差し替えられています(つまりパワーホールもイノキ・ボンバイエも流れない)。
テレビ朝日スポーツテーマから始まる完全版の発売を切に希望します(集英社さん、宜しくお願いいたします)。