『夢を追いかけない人間は野菜と同じだ』
『スピードに挑む時は5分が一生に勝る』
タイトルだけ見ると、俊足のネイティブがオリンピックに出る話かと思いますが違います。
1920年のバイク“インディアン・スカウト”を40年に渡って改良し続け、63歳にして世界最速記録を打ち立てた伝説のライダー、バート・マンローの物語です。
(2005年/ロジャー・ドナルドソン監督)
ニュージーランド南端の田舎町インバカーギル。家と言うよりは小屋、小屋と言うよりは倉庫(いや車庫)に近い建物で暮らす老人バート(アンソニー・ホプキンス)。
彼の夢はライダーの聖地、アメリカのボンヌヴィル塩平原(ソルトフラッツ)で愛車インディアン・スカウトを駆って世界最速に挑む事。
しかし、アメリカへの渡航費の捻出は難しく、半ば諦めかけていました…が、ひょんな事から心臓のトラブルが発覚。残された時間は少ない。やるなら今だ、今しかない。
銀行に掛け合い、カンパを募り、定期船にコックとして潜り込み、ついにアメリカへ。
言葉が通じるとは言え、そこは異国。小さなトラブルの波状攻撃が待っていますが、渡る世間に鬼は無し。バートと接したものはまるで憑き物が落ちたように善人に。
有り得ない展開ですが、「相手がアンソニー・ホプキンスなら…」と思わせるオーラが強引な説得力となって画面を牽引していきます。
唯一、善人として描かれなかったのが、“他人のためになる”と善意を吹聴して花を売っている娘(紙幣の区別がつかないバートの財布から20ドル札を掠め取っていく)。
作り手の心地よい悪意が伝わってくる名シーン(?)です。
目的地までに出会う様々な人との交流。どこか「ストレイト・ストーリー」を思わせるロード・ムービーでもあります。
(「あなた英国人?」と聞かれる度に「馬鹿言うな」「冗談じゃない」と速攻否定するのが妙に可笑しい)
そして辿りついたボンヌヴィル塩平原。そこには世界最速に挑む男達が。
事前登録をしていなかったバートは出場を拒絶されますが、粘り強く説得・嘆願する姿に周りも後押し。いつしか係員も“この爺さんに走らせてやりたい”と思うように…。
『時にはルールを曲げる事も必要だ』
目の前には広がりたいだけ広がる塩平原。目標時速300キロ。挑むのは40年前の博物館バイクに跨った62歳の男。
夢を叶える条件は“見続ける事”“追い続ける事”なんですねえ…。