『死は文化だ。我々日本人はキリスト教文化とは違い、命に罪を求めない。それは命の美しさを知っているからだ。だから死にも美しさを求める』
祖国防衛隊(後の楯の会)結成前後から“あの日”まで。「実録・連合赤軍」の監督によるもうひとつの憂国。性格真逆な一卵性双生児。
「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」
(2011年/若松孝二監督)
三島由紀夫役は「実録・連合赤軍」で坂井弘(あさま山荘事件中心人物)を演じた浦井新(ARATAから改名)。
新左翼から極右に思想転向です(笑)。
真っ向対立する思想であるはずの左派の行動が三島を後押ししているという構図が面白い。
68年の寸又峡温泉監禁事件(金嬉老事件)の記事を見て「人質もアリか…」。
70年のよど号ハイジャック事件に至っては「先を越された…」。
68年の国際反戦デーで新宿に集結した左派のデモ隊が警察に武力鎮圧(騒乱罪適用)された事に歯噛みする楯の会。
勿論、左派が敗れた事を嘆いているのではありません。自衛隊の治安出動の(その機に乗じてクーデターを起こし、国会を占拠し、憲法改正と自衛隊の国軍化を要求する)芽がなくなってしまったのを憤っているのです。
翌69年4月の沖縄デーのデモには破防法が適用。第2次国際反戦デーは戒厳令を思わせる圧倒的な警察権力の前に1,600人近い逮捕者が出ました。
近代国家の治安の担い手は警察権力であり、自衛隊の出番は最早…。
そこに起きた日航機ハイジャック事件。ダメ押しです。
三島映画と言えば、ポール・シュレーダー監督、緒方拳主演による「MISHIMA」があります。
こちらは三島の小説(金閣寺など)もイメージとして織り込んだ芸術映画ですが、クライマックスは同じく市谷駐屯地。
若松版では三島のあっちの嗜好は、“作戦会議は皆でサウナ”という非常に回りくどい表現になっていましたが、シュレーダー版ではもちっとストレートだったと思います。
美しい肉体を作るためのジム通い。45歳と言う逆らうことのできない老い。実は三島事件は美しさを保てなくなることへの恐怖から若い肉体を道連れに起こした無理心中なのではなかったか、という見方も出来る作りになっていました。
鉢巻に書かれた「七生報国」の文字と演説最後の「天皇陛下万歳」。それは60年に社会党党首浅沼稲次郎を講演中に壇上で刺殺し、獄中自殺した山口二矢が壁に書き残した文句でもありました。
映画ではなく歴史的事実として毎度腹が立つのが、三島演説中の自衛官の態度。野次ばかり飛ばしくさって学生運動家となんも変わらんやないか。聴けや、ちゃんと。
※写真は上から井浦、緒方、本人。役者よりも本人の方が数倍かっちょいいのは演者としては痛恨の極みかもしれません(演説部分は緒方に軍配)。