海猿にサイコパスは無理。 悪の教典
「性格悪いだろ、俺。いい奴とか立派な人間見るとな、こう、卑屈なもんが湧き出てくんだよ、心の奥底から、ふつふつとな」
「ところがあいつに逢った時は何にもそんなもん覚えなくてなあ…。表面だけ見れば随分とまぶしそうな奴だろう。だが1ヶ月半年と見続けても自己嫌悪がまるで呼び起こされん。どーも変だ。何かがおかしい」
面倒な性格描写や状況説明はまるっと削って、殺戮戦に時間を割く…。
“らしい”と言えば“らしい”。
脚本家が書き込んでいても“ここは撮るなって脚本が言っている”とかスーパーナチュラルな法則発動して好きなように撮ってしまう人が、自ら脚本を書いているのだから100%確信犯なのでしょう。
「悪の教典」(2012年/三池崇史監督)
サイコパス(外面はウルトラ善人だが何かにつけ抑えが効かず、気に入らない人・邪魔な人がいるとすぐ殺しちゃう)の高校教師が勢いでクラス全員を皆殺しにするお話。
生徒がやたら景気良く殺されるところから「バトルロワイアル」を引き合いに出す人が多いですが、あれとは全く別の箱。
むしろ「冷たい熱帯魚」の方が近しい作品なのではないかと思います。
犯人教師“ハスミン”こと蓮実聖司役の伊藤英明が、殻を破ったの一皮剝けたのと言われていますがそうですか?
サイコパスの心情など理解できるわけがありませんし、する必要もないのですが、もの凄く薄~い感じがいたします。
この実態の無い薄さの本質を捉えた(蓮実の底の浅さと伊藤の演技力を重ねた)のが冒頭の物理教師・釣井(吹越満)の台詞だとしたら、最高の悪意なのですが…。
役者として一番光っていたのは吹越満でしょう。自宅で彼が引き起こしたであろう惨劇が髪の毛のこびりついた血染めのバールによって示唆されるのみだったのは残念(「序章」は未見です。念の為)。
彼の乗った地下鉄がうねうねとクネる様子を捉えたカメラは絶品でした。
蓮実のアメリカ時代の回想は不要。
クローネンバーク・リスペクトなシーンはニヤリとはさせられますが、本当にそのカットが必要だったのか?と問われれば「いや、いらんだろ」。
ショットガンで弾かれた人間の肉体の物理的リアクションは“いい感じ”。
見所一杯、捨て所満載な話題作ではありました。