『おい、この辺に立ち喰い蕎麦屋はないか。暗い過去を引きずった親父がひとりで店を開き、悲しい男達がどんぶり一杯の温もりを求めてやってくる、そんな立ち喰い蕎麦屋だ』
『お客さん、ご存知なかったんですか。立ち喰い蕎麦屋は2年前から非合法化されたんですよ』
『何!?』
押井実写に当たり無し。その記念すべき第一作…ではあるのですが、何故か本作だけは妙に愛おしく…。
強固なプロテクトギアと銃火器で武装した首都圏対凶悪犯罪特殊武装機動特捜班(通称ケルベロス)。
しかし、行き過ぎた活動が世論の非難を浴び解体。その判断を善しとしなかった隊員3名がプロテクトギアと武器弾薬を奪って脱走し、1名が国外脱出に成功。
それから3年…。
都々目紅一(千葉繁)は帰ってきた。大きなスーツケースを抱えて。
ギリギリのモノトーン(モノクロではない)、鮮やかなパートカラー。
元々は千葉繁のプロモーションビデオ製作として立ち上がった話がいつしか劇場用35mmへ。
「うる星やつら」のスタッフ・キャスト総出。ノーギャラ手弁当の自主映画。
激しいアクションは冒頭のみで、本編は迷宮を彷徨う男の物語。
『犬は主人に忠実なものだ』
『犬は誰が主人か知っているものだ』
DVDに収録されているコメンタリー(押井守×伊藤和典)を聞いていると、
「ここが(睡魔に勝てるかどうかの)最初の関門ですね」
「ここが第二の…」「ここが第三の…」「そしてここが第四の…」
おいおいちょっと待て。関門まみれやないか(笑)。
激しく客を選ぶ作品なのは間違いありませんが、手探りで進んでいく構成や色彩の使い方など、タルコフスキーの「ストーカー」を思わせて飽きることがありません。
音楽の川井憲二と押井の出会いは本作から。
メインタイトルは何度聞いても鳥肌立ちまくりの名曲(昭和のプロレス者にとっては“サルマン・ハシミコフのテーマ”として耳馴染み)。
金がなければ智恵を出せ。現場の判断最優先。成り行きと実験の長回しは“台詞は全て入れてくるのが当たり前”な声優陣で固めたからこそ出来たこと。
特別ゲストの天本英世(立喰師・月見の銀二)が渋すぎです。
「1995年、夏。人々は溶けかかったアスファルトに己が足跡を刻印しつつ歩いていた。酷く暑い」