たとえ9割9部が駄目駄目でも、キラリと光るショック描写がひとつでもあれば、それは良い映画である、というテーゼは曼荼羅畑が繰り返し主張するところですが、本作もそんな1本。
「血に飢えた白い砂浜」
(1981年/ジェフリー・ブルーム監督)
原題は「Blood Beach」。直訳すれば「血浜」です。
この「血」と「浜」の間に「に飢えた白い砂」という詩的な文言を挟んだテレビ放送時の担当者のセンスは賞賛に値します。
逆にビデオ発売に際して「ブラッドビーチ」という原題の後に「謎の巨大生物!ギャルまるかじり」という偏差値貧乏な文言を付け加えた担当者も別の意味で尊敬しなければなりません。
とある田舎の海岸線。主人公は沿岸警備隊のお兄ちゃん。
朝の日課のひと泳ぎ。浜では別れた元カノのお母ちゃんが犬連れて散歩。
ひとしきりの挨拶を交わして海へ。普通ならここでサスペンスフルな音楽が流れて海から何かが迫ってくるところですが、狙われたのは何とお母ちゃん。
突然、砂浜に吸い込まれ、そのまま蟻地獄に引きずりこまれるように消えてゆくお母ちゃん。
本来安全なはずの砂浜で、中高年のおばさんが(“ギャルまるかじり”のはずなのに!)最初の犠牲者になるという意外性の二重奏。
この砂浜に吸い込まれるエフェクトが巧い!
飲み込みきったときに砂の表面が口唇のような動きを見せ、妙にエロティック。
しかし、素晴らしいのはここまで。
母ちゃんが消えたとの報を受けて都会に行った元カノ(でも人妻)が帰郷。
無駄にムーディな曲が流れまくって、人妻と元カレの危ない火遊び。いやあ、激しくどうでもいい。
その間にも浜では何人もの人が消えたり齧られたり(でも齧られたギャルはたったひとりなのであった)。
もう誰がどう考えても砂浜の中に何かがいるとしか思えないのですが、警察の捜査は遅々として進まず。
この刑事がバート・ヤング。その上司がジョン・サクソン。70年代を代表するエポック・メイキングな肉体派作品「ロッキー」と「燃えよドラゴン」を支えた二人が夢のタッグ。
およそ見せ場らしい見せ場もなく、怪物誕生の原因や裏話もなく、海水浴場を守ろうとするエライ人も登場せず、たるい恋愛描写の合間に誰かが喰われるか齧られる描写が挟み込まれるだけの寄せては返す波のような展開が延々…。
そこまで出し惜しみするか!というくらい引っ張り放題引っ張った謎の巨大生物ですが、ようやく姿を現したと思ったら、よく顔を確認する暇もなくダイナマイトで木っ端微塵。
最後にお約束のオチがついて幕。
結果として感想は「うわぁ、つまんねー!」なのですが、砂浜に吸い込まれる特撮だけはちょっと忘れられないインパクトがありました。この1カット(実際には何人も吸い込まれるので数カット)だけで本作は人の記憶に刻まれると思います。