デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

仕掛けて仕損じなし。 ダラスの熱い日

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『教えておく。36時間以内に新しいIDとパスポートで海外へ。当座の金が25,000ドル。国外で2年。スイス経由で年25,000ドルが5年間。1968年1月2日まで秘密が守られたら各人のスイス口座に10万ドル入れてやる』

ジーザス…標的が誰か分かったよ』

決行は1963年11月22日、場所はテキサス州…。

「ダラスのい日」
(1973年/デヴィッド・ミラー監督)


ジョン・F・ケネディ大統領暗殺から僅か10年後、事件が軍産共同謀議による密殺であったという仮説に基づいて構築された陰謀のシナリオ。

計画の中心人物にバート・ランカスターロバート・ライアン。渋いにも程があるキャスティング。

ドゴール大統領暗殺計画を描いた傑作フィクション「ジャッカルの日」が公開されたのもこの年。73年は謀殺イヤーでした。

ジャッカルの日」は一匹狼の殺し屋とパリ警察の攻防戦が見所のエンターテイメントでした。また、後の「JFK」は“真相に迫る”というアプローチのミステリーでしたが、「ダラスの熱い日」はこのどちらとも毛色が異なります。

最初から謀略。視点は暗殺者。水も漏らさぬ計画進行。

権力を向こうに回しての戦いではなく、犯人が権力そのもの。

ワシントンの電話回線を遮断し、長官機の暗号表を紛失させ、ニセの護衛を紛れ込ませる。

気づく者はおらず、裏切る者もドジる者もいない…のでサスペンスの生まれる余地がありません。

粛々と事態が進んでいく様子を退屈と見る人もいるでしょう。が、しかし…

私はひねくれ者なので、完璧と思われた計画が些細な事(主に不注意か仲間割れ)で瓦解していくというプロットが大嫌いです。

難関があるとすれば、それは主人公らの責任ではない不測の事態(天変地異とか政権転覆とか)でなければなりません。

倒した相手にトドメも刺さずに背中を向けた結果、ピンチに陥るようなマヌケに主人公の資格はないのです。

逆にプロがプロの仕事をマシンのような正確さでこなす映画ほど惚れ惚れするものはありません。

その意味で本作はストレス・フリー。史実を織り交ぜながら虚構を組み上げる手腕そのものがサスペンスです。

その経歴からコンピュータがいけにえとして弾き出したオズワルドを本人が気づかぬように躍らせ、替え玉を使って印象の痕跡をあちこちに残し、最後には口封じ。

それでも残った結論はオズワルド単独犯行説。

『よく(こんな与太話を)信じられるものだ』

『信じたいから信じるのさ』

『国民も政府も信じるしかないんだよ』

事件後3年間に重要証人18名が死亡した事を告げるナレーションが実に印象的。

※写真下左は暗殺計画の黒幕と思しき人、右はネルソン・ロックフェラー。