自由と死が等価の楽園。ハッシュパピー~バスタブ島の少女~
水、電気、衣糧に医療。安全。都会には何でもある。無いものはひとつだけ。自由。
「ハッシュパピー~バスタブ島の少女~」(2012年/ベン・ザイトリン監督)
ルイジアナの海岸線に浮かぶ島、バスタブ島。いずれ海の水位が上がれば、いや、大きな嵐がひとつ来たら海中に没してしまう。それは島の誰もが知っている。
バスタブ島は一年中お祭り騒ぎ。ハレ(晴)とケ(褻)のバランスの崩れた社会は実は結構危ない(騒いでないとやってられないくらい切羽詰っている)のですが、皆ご陽気。呑んで歌って踊って食べて。
ハッシュパピーは6歳。母親はいない。父親ウィンクは娘想いのロクデナシ。
ウィンクはもう長くは生きられない。本人も自覚している。そして島には100年に一度の大嵐が…。
暗くなりがちなシチュエーションですが、逞しいにも程がある島の人々と、南極の氷の中から蘇えった巨獣オーロックスという神秘的なファンタジー描写が、うまい具合に現実の辛さを希釈してくれています。
娘が一人でも生きていけるようにと、漁の仕方を教えるウィンク。
何か仕掛けがあるのかと思ったら、左手を川面に突っ込むだけ。なまずが触れたら鷲掴み。餌無しコツ無し道具無し。
掴み上げたら右のナックルパンチで気絶させて終了。
で、実際に掴み上げる(引きの固定アングルで編集無し)のですが、この時、水中スタッフがエライこっちゃになったようです↓。
When Wink reaches down in the river to show Hushpuppy how to catch a fish with his bare hand, a member of the production crew almost died swimming under water to facilitate this "fishing" feat.
(IMDbのTriviaより)
カメラの視線がハッシュパピー父娘に釘付けで、その他の人々(特にハッシュパピーと一緒にいる子供たち)が全員モブ扱いなのが惜しいですが、あくまでハッシュパピー目線のマジック・リアリズム(と言うんだそうです)だと思えば、まあ、これはこれでアリかも。
ちょっと「サン・ロレンツォの夜」を思い出しました。
2012年度アカデミー賞・作品賞・主演女優賞・監督賞・脚色賞ノミネート、カンヌ国際映画祭・カメラドール受賞、LA批評家協会賞・助演男優賞・音楽賞・ニュージェネレーション賞受賞その他諸々。