『こんな番組は見るに堪えん。ここに住めん奴らが西海岸へ行き、テレビを作るんだ』
ミシガン州。敬虔なカルヴァン派キリスト教徒の町。
テレビも映画も堕落の象徴。それはポール・シュレーダーの生まれ育った環境でもあります。
「ハードコアの夜」
(1979年/ポール・シュレーダー監督)
青少年カルヴィニスト・コンベンションに参加するためカリフォルニアに行ったひとり娘クリステンが失踪。
父ジェイク(ジョージ・C・スコット)は失踪者専門の私立探偵アンディ(ピーター・ボイル)を雇いますが…。
数日後、アンディが持ってきたもの。それはクリステンが映っているブルーフィルム。
娘を取り戻すため、ジェイクは独り風俗産業の舞台裏へ。
厳格な中流家庭のキリスト教徒が性と欲望の異界を彷徨(アンディはジェイクの事を“巡礼さん”と)。
「バッド・ルーテナント」を紹介した時に“主役は街、そしてハーヴェイ・カイテル本人”と書きましたが、本作もまた“主役は街、そしてジョージ・C・スコット本人”です。
正攻法で訪ね歩いても無駄と悟ったジェイクは、投資家を装ってポルノ製作者に接近、架空のオーディションをでっち上げてポルノ男優を募集…。
いた…フィルムの中で娘と寝ていた男だ!
兎に角、アンディの行動力が凄い。暴力を振るう時の迷いの無さも。
ヘッドロックをかけたと思ったら間髪入れず街灯柱に頭から…。あなた、木工家具工場の経営者でカルヴァン派だろ。何でそんなに喧嘩慣れしているんだ?
理由は簡単、ジョージ・C・スコットだからです(笑)。
本作撮影時は「スターウォーズ」ブームの真っ只中(チャイニーズ・シアターでも上映中)。バーのステージでは全裸のお姉さんがライトセーバーをブイーンブイーン。
マッチョな父親が行きずりの女の協力を得て娘を奪い返しに行く、というプロットだけ見れば「コマンドー」(1985)と変わらないのですが、索漠とした雰囲気が70’s(いやそもそも比べるなよって話ではありますが…)。
僅かな手掛かりを手繰った先にあったのは…。
当初はもっとバッドエンドになる予定だったそうですが、この終わり方で良いと思います。ジェイクと娘の関係性ではなく、ジェイクと業界脱出を夢見る協力者ニキ(シーズン・フューブリー)との関係性という意味において。
「家に帰れよ、巡礼さん。(ここは)おたくとは縁のない別の世界なんだ」