池田敏春という名前を基準にした「(池田敏春だから)良い」「(池田敏春なのに)悪い」という判断はどちらも等しく見識に欠ける、とは思います。
思いますが…。
「ハサミ男」(2004年/池田敏春監督)
鋭利に研いだハサミを喉に突き立てて殺す連続殺人鬼“ハサミ男”。
目星をつけたターゲット(おとなしくて成績優秀な女子高生)に近づいたら、一足先に誰かに殺られちまった後。しかもその首筋には墓標のようなハサミが…。
本人目の前にしてコピーキャットとは生意気な…。
という犯人側視点で展開する真犯人探しミステリー。
原作では“言葉だけ”というハンデを活かした活字ならではのレトリックを駆使しているようですが、その方法論を映画に持ち込むのはハナっから無理。
映像化しようと思ったら、「ファイトクラブ」方式にするしかないよなぁとは思うので、原作と違うアプローチに文句をつけるつもりはありません。
引っかかったのは個々の演出方法。
冒頭の殺人現場。カメラに向かって効果音と共に飛んでくるハサミのイメージ・ショット。続いて、ハサミが刺さっているわけでも血が噴き出している訳でもなく、ただ倒れていく女子高生のスロー・ショット。
ううむ。意図的に古めかしい、臭い演出をしたのかもしれませんし、何かの(もしくはただ単に懐古趣味的な)オマージュなのかもしれませんが、私はここで腰砕け。
喋りながら少しずつカメラに近づいてくる若手刑事。
どう見てもコントにしか見えない投身自殺シーン。
画とシンクロしていないアフレコ。
全く痛そうに見えないパンチと鈍器による殴打。
テレビドラマの枠を一歩も出ていないステレオタイプな犯人像とトラウマ。
AMAZONには「酷評してる人は、あまり映画を見る目が肥えてない人だろう。新しいものへの挑戦や、古いものへのオマージュができない消費者的な視聴者とでも言おうか」なんてレビューがありましたが、果たしてそうか?
前半はひたすら伏線張りという“作業”が続き、後半ようやく伏線回収で巻き返すものの、蛇足としか思えないエピで尻つぼみ。
原作を壊そうが改竄しようが面白ければ全ての行為は正当化される(少なくとも私の中では)のですが、こいつはどうも…。
脚本(池田敏春&香川まさひと)にも突っ込みたい所が多々あるのですが、どう考えてもリーダーシップ取っていたのは池田監督でしょうし、良く見りゃ脚本協力として相米慎二やら長谷川和彦の名前も。
そりゃ誰も文句言えんわな(相米監督は2001年にお亡くなりになっているので関与の程は判りませんが…)。
かつては時代の寵児だった「ディレクターズ・カンパニー」も最後は老害か。
合掌(色々な意味で)。