「…中でも福井という土地は、石川・富山を併せた北陸三県の商工業の中心であって、古くからヤクザ者の数が多く、過去、そこで繰り広げられた抗争事件は、どれをとっても広島や九州のヤクザ者たちでさえ顔を背ける程、凄惨・苛烈な戦いであった」
物凄いオープニング・ナレーションです(いいのか、福井県民?)。
しかし、エンディング・ナレーションはもっと凄かった。
「俗に北陸三県の気質を称して越中強盗、加賀乞食、越前詐欺師と言うが、この三者に共通しているのは生きるためにはなりふり構わず、手段を選ばぬ北陸人特有のしぶとさである」
これは…誉めているのか?
初めて聞いた時は「本当にそんな言い回しがあるのか?」と思いましたが、あるんですね、普通に。
勿論、富山県人が皆追い剥ぎという意味でも、石川県人が皆物乞いをしているという意味でも、福井県人が皆嘘つきだという意味でもありません(詳しく知りたい人はググってください)。
『頭、飢えた狼には杯も茶碗もありゃせんですよ。事と次第によっちゃ親兄弟だって食い殺しますわ』
東映実録路線ここに幕引き。
「北陸代理戦争」
(1977年/深作欣二監督)
北陸進出を狙う大阪、名古屋。迎え撃つ福井。モデルになったのは川内組組長・川内弘(劇中では川田登。演じるは松方弘樹)。
シリーズ化する気満々の終わり方でしたが、続編が作られる事はありませんでした。
のみならず、本作を以って、“実録路線シリーズ”そのものが幕を降ろす事に。
原因は?
興行的にコケた…という事もありますが、最大の理由は、映画の続きを考えるより先に現実がお話の続きを演じてしまったから。
映画は、松方弘樹が杯受けた親分に叛旗を翻す(事を匂わせる)所で終わります。
公開から2ヵ月半後。本作のモデル、川内弘はヒットマンに射殺されます。
刺客を放ったのは川内に杯を与えた山口組最高幹部・菅谷。襲撃場所は、映画の中で松方弘樹が襲撃を受けたのと同じ喫茶店。
洒落にならないなんてもんじゃありません。
映画が現実を模倣し、現実が映画を模倣する(まるで“ご返杯”だ)。
今ならシリーズが終わる程度じゃ済まないでしょうねえ…。
本作の当初主演予定は菅原文太でしたが、いい加減、実録路線に飽きていた文太はオファーを拒否。
共演予定だった渡瀬恒彦は小林稔侍その他の頭をジープでスクイーズするシーンで事故ってリタイア。
豪雪で押しに押した撮影が終わったのは公開3日前(編集の人、3回死んだと思います)。
という事情で本作の予告編は本編と大きく異なっています。
渡瀬恒彦はしっかりテロップつきで登場していますし(実際に出演していたのは伊吹吾郎)、本編にはない“ダイナマイトどんどん”な爆破シーンを見る事もできます。
劇中、捨て駒として使い潰されるチンピラ鉄砲玉を演じる小林稔侍の役名が“朴竜国”ってとこにも芸の細かさを感じます。
是非、「沖縄やくざ戦争」とセットでご覧ください。