「レキ! 私を呼んで! 私を必要だって言って!」
序盤はゆったり、中盤もゆったり、終盤になって加速を始め、最終回で一気にトップへ。
大きな事件は無く、伏線もほとんど回収されませんが、決して“投げっぱなし”ではありません。
“萌え”など最初から打ち捨てた動く宗教絵画の如き清廉さ。
「灰羽連盟[北米版DVD-BOX]」
(2002年10月-12月放送/ところともかず監督)
空から一直線に落ちてくる少女。天へ引き上げようとあがくカラスが一匹。
気が付くと透明な液体で満たされた巨大な繭の中。今のは夢…?
そこはグリ。周囲を高い壁で囲まれた街。一部の例外を除いて出る事も入る事も出来ない街。その外れのオールド・ホームと呼ばれる建物。
彼女は灰羽。頭上に光輪、背中に飛べない羽を持つ天使のような生き物。
過去の記憶の一切が無い灰羽は繭の中で見た夢にちなんだ名前をもらう。空から落ちてくる夢を見た彼女の名前は“ラッカ(落下)”。
グリは人間と灰羽が共存する社会。「労働の義務」「貨幣の不所持」など守らなければならないルールはありますが、決して虐げられている訳ではありません。
ラッカの面倒を見る先輩灰羽のレキ(礫)。図書館で働くネム(眠)、パン屋で働くヒカリ(光)、時計屋で働くカナ(魚)、そしてクウ(空)。
仲間に囲まれて街に溶け込んでいくラッカ。しかし“別れ”は確実に…。
灰羽は何故生まれてくるのか。祝福された灰羽と罪憑きの灰羽がいるのは何故か。壁の外はどうなっているのか。巣立ちを迎えた灰羽はどこに行くのか。
答えはどこにもありません。誰の心にも巣食う外界への不安と恐怖。殻を破る勇気。
罪憑きとして生まれ、その呪いを善行によって浄化しようとするレキ。赦しの願いは届くのか。
「この暗い夢から私はとうとう抜け出す事ができなかった。ありもしない救いを求めて、7年間ずっと…」
重く悲しく切ないお話ではありますが、後味は悪くありません(むしろ爽やか)。
突然、外界からやってきた記憶の無い者が、祈りと祝福の中で転生する、という構図は後の「Angel Beats」に継承されています(テイストは別物ですが…)。
日本絵画を専門にしていた安部吉俊氏(シリーズ構成・脚本・キャラクター原案)の絵柄(安易な感動を拒むセピアな色合い)が素晴らしい。
北米版DVD-BOXは2枚組(全13話)で3,000円弱。