オープニングで表示される出演者テロップはたった1行。
(starring)ELEANOR
“エレノア”。人の名前ではありません。劇中使用されるフォード・マスタングのコードネームです。
車が主役であとはモブ。カースタントを心意気で煮〆た男気映画。
「バニシングin 60”」(1974年/H・B・ハリッキー監督)
メイドリアン・ペイス(H・B・ハリッキー)は車両の事故や窃盗を取り扱っている保険会社の嘱託調査員…というのは表の顔で、実はカー窃盗団のリーダー。
60秒あればどんな車でも盗み出してみせますが、盗難保険に入っていない車は狙わないという矜持の持ち主。
高額車両ばかり40台という高難易度の仕事を請け負ったペイス。不可能と思えたノルマをなんとかクリアしましたが、エレノアに盗難保険が掛かっていない事が発覚。
エレノアを持ち主に返し、別の車を手にした瞬間、警察との大ドッグチェイスがスタート!
ここまでの展開は正直退屈。脚本も編集もこなれてなくて、要するに“説明下手”。
しかし、そんな事は枝葉末節。上映時間の半分近く(40分以上)を占めるカースタントこそが本編であり見せ場です。
逃走エリアが拡大するたびに、各エリアを管轄する警察が応援として追跡に参加してくるので追跡車両が雪崩式に増加。
通信指令の様子やヘリの投入もあり、カット割りからカメラワークまでさっきとは別人のように活き活きと。
「ブルース・ブラザース」や「西部警察」が影響を受けたであろうショットも散見。
囲まれる、クラッシュする(マジで事故った映像もそのまま使用)、その度に終わりか、と思わせてまた走る。
ドッグチェイス開始当初から追跡に参加している“1-BAKER-11”がしぶとい。
“1-BAKER-11、まだ追跡中ですか?”
「それ以外の何をしているって言うんだ?!」
万策尽き果てたか、と思わせて小洒落た一発逆転をかますエンディングも素敵です。
前半がやや退屈なもうひとつの理由に、2001年のDVD化の際、この映画のために作られたオリジナルソング6曲が著作権の都合で全てカットされてしまった事が挙げられます。
最早、劇場公開版を観る事は不可能か、と思われましたが、今回、「その手があったか?!」な抜け道が見つかりました。
今月2日にHappinetから発売されたHDニューマスター版のBD/DVDにはTV放映版日本語吹替音声が収録されているのですが、こちらの音源はオリジナルマスター。
つまり、英語版は従来通りの差し替えヘッポコ音楽ですが、日本語吹き替えにすればオリジナルソングが楽しめるという訳です。
苦節13年、ようやくオリジナル音源が…。偉いぞ、Happinet。