『遺書があったでしょう? ない? なら書けばいいじゃないですか』
夏(もう9月ですが)と言えば「日本のいちばん長い日」とこの1本。
「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」
(1981年/熊井啓監督)
1949年7月5日に行方不明になった国鉄初代総裁・下山定則が翌6日、足立区綾瀬の国鉄常磐線北千住-綾瀬間で轢断死体として発見された“下山事件”。
事件の焦点は自殺(生体轢断)か他殺(死後轢断)か。
真っ向対立する検察医務院&慶応大学(生体轢断)と東京大学(死後轢断)。
それはそのまま捜査方針の対立となり、報道姿勢の対立となり…。
他殺説の立場から事件の真相に迫る昭和日報の社会部記者・矢代(仲代達矢)。踏み込んだ先は伏魔殿。
前年10月にNHKが前後編に分けて放送したドキュメンタリー・ドラマ「空白の900分-国鉄総裁怪死事件-」と一部内容がごっちゃになっていたのですが、やっと整理がつきました。
クーラーのない日本は暑い。編集部が、捜査本部が、サウナ蒸し風呂オンドル小屋。
左派の革命運動も熱い。捜査の執念も熱い。逆にこの謀略を仕切る闇が冷たく怖い。
事件発生時の貧乏工場からわずか8年で大工場に発展した國原鋼材。そこは下山総裁の衣服に付着していた米ヌカ油と染料を扱っていた所。米軍からの直接発注(山中での戦闘に不可欠なピアノ線製造)で潤った所。
國原鋼材で矢代らは、米軍の工作員と噂される謎の男、唐沢(大滝秀治)を目撃。
「日本列島」(1965年/熊井啓監督)の時もそうでしたが、この人、引きで撮るだけで物凄く怖い。口は笑っているのに目は微塵も笑っていない。半端無い存在感(取り調べシーンでは鼻水がてらてら光っていますが、これもまた凄い)。
俳優座映画放送製作(配給は松竹)なので、俳優座メンバー総出演。
隆大介がギラギラで熱い。仲代の跡目継ぐのはこの人だと思っていましたが、結局、役所(←編集部若手でチョイ役出演)にさらわれてしまいました。
記録フィルムとシンクロしたモノクロ映像も粒子ギラギラで熱い。
実は一番熱かったのは、こんな映画が撮れていた日本映画界だったのかも(完全過去形。合掌)。