『お笑いだ…。生まれてこの方35年。35年の馬鹿騒ぎだ』
「仁義の墓場」に先立つこと4年。一足お先にちゃっかり借用。
東宝配給のやくざ映画。主役は仲代。監督は五社。舞台は下北。彩る音色は津軽三味線。
異色づくめの着流し渡世。
「出所祝い」(1971年/五社英雄監督)
トンネル工事の受注を巡って対立した榎家と観音組。榎家の岩橋(仲代達矢)と観音組の尾関(安藤昇)がようやく手打ちにこぎつけようとした時、観音組がダイナマイトでフライング。
瞬間核融合炉と化した両陣営は、スプリンクラーの如く血糊まき散らしてあの世か刑務所のいずれかへ。
これで8年10年納まってりゃ色々ほとぼりも冷めようものを、時あたかも大正天皇崩御、今上天皇即位という大イベントの真っ最中。
恩赦・特赦のバーゲンセール。予定を繰り上げ娑婆リターン。
しかし、戻ってくるには早すぎた…。
下北の景観+津軽じょんがらという組み合わせが、見たこともない空間を創出。
波打ち際で朽ち果てた漁船(この世の景色とは思えない寂寞感)。仕込み傘を持った謎の女殺し屋二人組。
大物政治家・浅倉(丹波哲郎)の取り持ちで兄弟杯を交わしていた橘屋二代目・榊(夏八木勲)と観音組二代目・五十嵐(田中浩)。
陰謀の匂いを嗅ぎつける岩橋と尾関。
安藤昇の存在感が凄い。岩橋の演技をしている仲代と違い、安藤昇はそこに居る(在る)だけで体積分以上の空気を圧しています。
高橋竹山自ら奏でる津軽三味線…痺れます。
ちょいと訳ありな女彫り物師・お夕に江波杏子。仲代に馬乗り顔面ビンタを張れるのは彼女くらいかもしれません。
居場所を失った亡霊たちの束の間の宴。爽快感が彼岸の彼方(浄瑠璃を観ているようだ)。
編集に難あり(中途半端に時系をいじったり、不自然な間を空けたりして全体のバランスとテンポを崩している)ではありますが、東映では決して観る事の出来ない“文芸やくざ”映画です。