『こんな作品でヒットをとりたくなかった』
東宝の偉いさんの発言です。
『次はもっと心に残る作品を撮ってください』
東宝のスタッフが監督の台本に書き込んだコメントです。
それが当時の趨勢(恐らく今もそんなに変わってはいない)。
だから、あんたらの作る映画は面白くないんだよ。
「HOUSE ハウス」
(1977年/大林宣彦監督)
池上季美子が、自室でくるりとターンをするとセーラー服が私服のワンピースに。
別にどうという事の無いシーン。でも、その美しさは自然で儚く、幻想的ですら…。
窓の外は絵。人工的な照明と色彩とセットの中で演技という範疇にすら辿りつけない少女たちが繰り広げる阿鼻叫喚。
いかにも自主製作な、チープな手作り感満点の特撮。
ダダすべりのギャグ。ビビらせるつもりが笑いを誘ってしまうという途方に暮れる惨劇。しかし、そこには紛う事無き実験と挑戦が。これを『冒険』と呼ばずして何とする。
大林を蒸留し、冷やし、戻した高純度大林。
面白いかつまらないかで言えば実に微妙。しかし、間違いなく美しい。
ちょっとしたリトマス試験紙かもしれません。
クライテリオン版BDは3,500円前後(国内版はDVDのみ)。大林監督らの40分を越えるロングインタビュー(クライテリオン独自企画)は、本作に賭けた意気込みと、周囲の無理解とCM監督への風当たりなど“にこやかな恨み言”が聞けて必見。