役者は総じて悪くはないです。“都合のいい役者”役所広司の起用は「またかよ」でしたが、時折見せる表情が三船っぽく、思いのほかハマっておりました。
CGはシーンによってエライ事出来にバラツキがありましたが、カメラアングルを自在にとれるという長所を活かして変化のある画作りに貢献しておりました。
問題は脚本と演出。
表層的で薄い。この題材を以ってしてこの程度のお話しか紡げないのか。
「聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-」
(2011年/成島出監督)
やたら大きく出たサブタイがついておりますが、特段目新しい真実などありません。
海軍=善で陸軍=悪、五十六だけに先見の明があった的ステレオタイプな設定はプロパガンダの域に達しており、冒頭で海軍省に銃口を向ける陸軍とかどう考えてもあり得ません(洒落で済む範疇を景気良く逸脱している)。
細かい描写の間違い(時代考証の欠落)はそっち方面の識者にお任せするとして、個人的に気になったシーンを挙げておくと、
ひとり飛龍と命運を共にする山口多聞(阿部寛)…って、ちょっと待て、加来艦長はどこ行った?
南雲の艦隊での兵装転換も陸上攻撃兵装→魚雷しか描かれていませんが、正しくは魚雷→陸上攻撃兵装→魚雷だろ。「太平洋の嵐」100回観直せ。
南雲忠一はただでさえ悪者として描かれる事が多いのに、今回は上層部の意を組んだスパイのような位置づけで、獅子身中の虫感が半端無いです(演じた中原丈雄は本人にも似ていてGoodでしたが)。
五十六が風邪をこじらせた妻(原田美枝子)に形見として手渡す恩寵の懐中時計。確かその時計は愛人の河合千代子にあげたんじゃなかったっけ?
そんなに美談で塗り固めたいのか?
語り部として新聞記者(玉木宏)が登場しますが、「軍閥」加山雄三の足下にも及びません。
軍閥と言えば、この時代の話に東條英機がビタ一文絡まないってどうよ?
結局、作り手の意識が「悪いのは陸軍」「悪いのは大手新聞」「悪いのは簡単に乗せられた国民、世論」「山本五十六万歳!」に終始しているので、恐ろしく平衡感覚を欠いた気持ちの悪い手触りになっています。
トドメはエンディングの小椋圭。気持ち悪いの駄目押し上塗り重ね履き。役所さん、やっぱもうちょっと仕事選んで。