『わしはな、これで人間になったような気がするよ
人のために喜んで死ねるようなら、人間一人前じゃないかな』
用心棒と言えば勇ましいが、仕事はみかじめ回収というケチな浪人・金子市之丞(中村翫右衛門)。
『余計な事だがあいつは俺の女房だ。河内山の女房だ』
自宅で賭場を開帳しているやくざ坊主・河内山宗俊(河原崎長十郎)。
とてもお天道様の下を大手を振って歩けるとは言いがたいハミ出し者がひとりの少女の窮地を救うため命懸けの大勝負。
「河内山宗俊」(1936年/山中貞夫監督)
「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」(1935)、「人情紙風船」(1937)、そして本作。現存する山中監督作品の全て。26分の3。残存確率11.5%。
この3本も“戦後公開版”なのでオリジナル全長版ではない可能性が濃厚。
事実、「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」にはGHQの検閲によってカットされた殺陣シーンがありましたし(一部がDVDに映像特典として収録)、本作もクライマックスに大立ち回りがあったそうです(映画評論家・滝沢一氏の証言)。
狭い構内を使っての奥行きある殺陣。
本作について山中監督は「この映画で見られるのは立ち廻りだけや」と卑下していたようですが、その“見られる”立ち廻りが消失しているのだとしたら悲しいことです。
「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」の時に感じた“勢い”は影を潜めていますが、ディテールを積み重ねてキャラを立たせていく丁寧な作りになっています。
原節子(15歳)、この人の存在なしに本作を語ることはできません。
無垢なる者を守ろうとするアウトローたちの心意気を堪能しましょう。