『What's the matter with him? He'd rather talk to a woman than drink?』
(どうしたんだあいつ? 酒より女の方がいいってのか?)
『What's that got to do with it, man? I said I'd buy you one! Now drink it down!』
(それがどうしたってんだ? 奢ってやると言ってるんだ! とっとと飲み干せ!)
『What's wrong with you,you bastard? Why don't you come and drink with me? What's wrong with you?』
(どうしたんだ、お前馬鹿なのか? 何で俺と飲まない? 一体どういう事だ?)
いかなる状況に於いても“飲まない”という選択肢が無い(と言うか許されない)世界。アルコールとギャンブルとハンティングが男の理性を突き崩す。
「荒野の千鳥足」(1971年/テッド・コッチェフ監督)
すっとこどっこいな邦題からベロベロになって銃乱れ撃つスチャラカ西部劇を想像するかもしれませんが違います。
いや、ベロベロになって銃乱れ撃つ映画なのですが、意味合いが違います。
オーストラリア。360度地平線が見える究極の田舎町ティボンダ。学校教師ジョン・グラントはクリスマス休暇(南半球なので真夏。夏休みと同義)でシドニーへ。
途中ヤバという街に立ち寄ったのが災いの元。
ヤバの人は皆親切。とにかく酒を奢ってくれます。彼らが飲んでいるのはWESTENDというオーストラリアビール。
Don't forget the tomato juice! 自分でレッドアイにしているヤバオヤジ。
これ“ローアルコール・ビール”なんですね。すぐに酔いたい人には不向きですが、延々と飲み続けたい人にはうってつけ。
このWESTENDを飲む(飲まされる)。ひたすら飲む(飲まされる)。
何やってんだドナルド・プレザンス。
バーの奥には賭博場。放り投げられた2枚のコインの表裏を当てる丁半博打並みにシンプルなギャンブル(2枚が表と裏だったらノーカウント)。
シンプルイズワースト。酔った勢いとビギナーズラックがジョンの欲望を刺激してあっという間に一文無し。
シンプルな博打ほど怖いものはありません。
それでもヤバの人は屈託なく笑う。
『いいから飲もうぜ。そうだ、カンガルー狩りに行こう』
カンガルー狩り。食べるわけではありません。遊び。ヒャッハー!ドキューン!
ファイティング・カンガルーのネルソン君だけは芸人ですが、殺してないよね?
ヤバいです。全部本物。「食人族」のウミガメ解体より始末が悪い。「スタッフが美味しく頂きました」とは絶対に言えないカンガルーのオブジェ(「悪魔のいけにえ」かよ!)。
そしてまた酒。音を立てて理性のカダが弾け飛んでいくジョン。
心も体もズタボロ。それでも飲む。
田舎の怖さをチェンソーではなく異文化で現す。「脱出」や「ウィッカーマン」(邦画だと「牛頭」か?)と同じ箱。
メジャー監督になる前のテッド・コッチェフが描くオーストラリアの(人の心の)闇。
WESTEND片手にどうぞ。