『さて…』観終わって壁にもたれて天井を眺め、日東の安いディーバッグにお湯を注いで湯気を追い、一口すすって元の体勢に戻る。
『さて…』どうしたものか、この映画(軽いデジャヴに襲われて頂ければ幸いです)。
「悼む人」(2014年/堤幸彦監督)
不慮の死、非業の死を遂げた見知らぬ人々を≪悼む≫ために全国行脚する青年のお話です。
観る前の準備:心を取り出してよ~っく洗う(手揉み洗い推奨)。
どうもこの映画、心が汚れていると正しく認識できないようです。私は相当汚れた状態(エアコンがフィルター清掃エラーで停まるレベル)で鑑賞したので、本作の有難味がよく分かりませんでした。
主人公・坂築静人(高良健吾)くんは、仕事もコミュ障の父も末期癌の母もシングルマザーになる事を決意した妹も全部うっちゃって他人の死を悼む旅に出ています。
どうやって調べたのか、事故(事件)現場に赴き、とても恥ずかしくて人前ではできない(中二病患者がチャクラを開くような)変身ポーズで、大気と残留思念(?)をかき集めると、あちこちで聞きかじった死者の様子(誰を愛し、誰に愛され、何をして感謝されたのか)を語り「そんなあなたを私は覚えています」と結ぶ。
どー見てもアブナイ人です。電波です。中二です。自己完結型ナルシストです。
彼を“穢れ無き純真無垢なる魂”と捉えると、世界が慈愛と寛容と欺瞞で満ち溢れてきます。
彼を“ただの狂人”と見れば、(少なくとも私の)世界は落ち着きを取り戻すでしょう。
いっそ彼を“この世ならざるもの”としてしまえば全く別の(それはそれで素晴らしい)映画になったような気がします(原作あるから無理か…)。
いずれにしても現世(うつしよ)とは一線を画した存在。故に、彼が(勝手について来た夫殺しの過去を持つ)石田ゆりことSEXとかお門違いも甚だしい愚挙と言わざるを得ません。
見せ場がないのを濡れ場でカバー? だとしたら、石田は完全に脱ぎ損です。
なあ、静人くん、君はこれからもそんな旅を続けて行くのかい? 悼む相手はランダムチョイス?何か君の琴線に触れた人だけ悼んでいるの? 図書館とかで近所の不幸な事故・事件を眼を皿のようにして漁っているのかい? そして探偵よろしく聴き込みをして、死者の表層だけを切り取って呪文を唱え…。今まで何人の人を悼んできたの? その全員を本当に覚えているの?
芸達者な役者↓が揃っているので138分を退屈とは感じませんが、どうにも釈然としないモヤモヤが残ります。
やはり私は心が汚れすぎているのでしょう。