『シズオ、お前、今ピンチだぞ』
『ピンチはチャンスって言うじゃない』
『お前に限っては、ピンチはピンチなの!』
【駄目に生きる】は「ゴースト・ワールド」のキャッチ・コピーですが、本作にこそふさわしいと思います。
「俺はまだ本気出してないだけ」
(2013年/福田雄一監督)
“会社を辞めて1ヶ月…俺は自分を探していた”
この最初の一言で多くの人が理解したでしょう。
嗚呼、これは駄目な奴だ。駄目で最低で最悪の穀潰しで全サラリーマンの憧れの星だ。
大黒シズオ42歳バツイチ(堤真一)。突然会社を辞め、職も探さず朝からゲーム。探しているのは自分であって職じゃない。
世を偲ぶ仮の姿としてファーストフードでバイト。ひとりだけ年長なので周りからは「店長」と呼ばれていますが、評価は最低。外国人バイトのボブに説教垂れられる日々。
そしてある日突然、天啓を受けたシズオは家族に向かって高らかに宣言する。
『俺、漫画家になるよ』
最低の男を取り巻く人間が皆最高。
怒り、呆れ、泣き、諦めかけてまた怒る父・志郎(石橋蓮司)。
『いいじゃん、漫画家。デビューしてよ』
涼やかな笑みで父親を放し飼いにする娘・静子(橋本愛)。
呑み代をたかられても嫌な顔せずつきあってくれる幼馴染・宮田(生瀬勝久)。
無気力なくせに短気で何をやっても面白くないしうまくいかない若者・市野沢(山田孝之)。
シズオの描いた原稿をストレートにボツと言わずに次に繋げてくれる中学館の編集者・村上(濱田岳)。
シズオと飲んだ後、ふと店先に映る自分の姿を凝視してしまう生瀬がいい。
山田は「クローズ」の100倍かっちょいい。
編集者・濱田のシズオ捌きは神対応。彼が『これ…傑作です!』と言い切った「人生300年」は私も傑作だと思います。持ち込んだ先が「ガロ」だったら間違いなく掲載されていたでしょう。
シズオのような人生送りたくない。でも周りがそして観客がシズオに向ける視線には幾ばくかの憧憬が間違いなく…。
逆に、宮田の人生第2章(脱サラしてパン屋始めようとしたら別れた嫁と息子が還って来た)はリアリティ欠如で興醒め(やった事ないけどパン屋舐めんなよ)。
外野の雑音を全て聞き流して、決して反省せず、何の根拠もないのに自分の才を疑わず、ポジティヴの限りを尽くす。
あり得ないからこそ、そこに痺れる、憧れる。
リアルでいたらちょっと嫌。でも応援したい駄目男。いつかシズオが本気出す日を心待ちにしております。