
ちょいと心を病んでいる逃亡犯(公判当日、判事、速記官、警官撃ち殺して脱走)が薬物中毒のシングルマザー宅に押し入って籠城。
女が神の教えを説いた本を読み聞かせ、犯人を投降に導いた“感動の実話”だそうです。
「捕われた女」(2015年/ジェリー・ジェームソン監督)
お話は冒頭に掲げた通り。さしたる展開も盛り上がりもなく淡々と進みます。
神の教えを説いた書とは、『人生を導く5つの目的』(リック・ウォレン著)のことで、アマゾンで訳書が普通に買えます。

『目的ある人生なら耐えられるが、なければ耐えられない』そうですか。
もっとこの本が大活躍する(本の教えを実践することによって、女の精神が安定し、行動を喚起し、遂には男の凶行をストップさせる)のかと思いきや、終盤に一節を読み聞かせるだけ。

人生には(誰かに与えられた)意味も目的も無いし、勿論神なんかいない(仮にそんなものがいたとしても膝を屈する気など毛頭無い)と思っているウルトラ罰当たりな人間にとっては眉に唾ベタベタなお話なのですが、アメリカ人のメンタリティにはフィットするのかもしれません。
原作はこの女性、アシュリー・スミスの体験記。なので、彼女の見聞の外にある描写は基本創作。警察側の細かい描写はほぼ映画的嘘と言っていいでしょう。
その中で気になったシーンがひとつ。
捜索チームのヘッドである黒人警部補が飲料自販機に八つ当たりするところ。金を入れても反応しない自販機にキレて、殴り蹴り遂には横倒しに。自販機からはコーヒーが流れ出てまるで血のよう…。

明らかに『ほ~ら、こいつだってこんなくだらないことにキレるだろ。相手が人間か自販機かの違いだけで警察だって犯人と変わらないんだよ』という隠喩ですが、表現がいやらしすぎ。
犯人に対する視線を緩めるためにバイアスを掛けようとしている小手先のテクニックが不快です。
で、最も不快だったのがラストシーン。何とアシュリー本人が登場。TVのトーク番組のような所で当時の様子を力強く語…っている所に「人生を導く5つの目的」の著者リック・ウォレンがサプライズ・ゲストとして登場。

『どんな大問題よりも神の目的は偉大だ』そうですか。
二人で互いの著書の意義深さ、素晴らしさを褒め称えあう大団円。
うわあ、そういう映画だったのか…。
監督さん、どこかで聞いた名前だな、と思ったら「パニック・イン・テキサスタワー」「エアポート77」「レイズ・ザ・タイタニック」撮った人でした。
まだ現役だったんだ。本作唯一の収穫かも。