敵側を敢えて主役に据える。あるいは既に語られた物語を別視点で再構築する。
前者の例は「人造人間ハカイダー」、後者の例は「とある魔術の~」に対する「とある科学の~」の“シスターズ編”(なんという偏差値貧乏な例え!満足)。
これはその両方の意味合いを持ったスピンオフの走り…かもしれません。
ちょいと調べてみましたら、タイトルに“宮本武蔵”を冠する作品はTVM、TVシリーズ、アニメを含め21本ありました。
対して“佐々木小次郎”を冠する作品は僅か6本。尾上菊之助(7代目菊五郎)が演じた67年版を除けば全て50年代(ブームだったのか、佐々木小次郎)。
この6本中3本で小次郎を演じたのが大谷友右衛門(4代目中村雀右衛門)で本作がその1本目(因みに残り2本は東千代之介)
…だと思っていたのですが、1作目は116分、本作は頭に“總篇”とついて140分なので50~51年にかけて製作された3部作の総集編なのかもしれません(←よく確かめてから借りろよ)。
判官贔屓もあって敗北に向かって突き進む物語に期待をしましたが、なるほど小次郎作品が少ない理由が分かりました。
そもそも原作をマトモに読んでいない(「バガボンド」すら読んでいない)人間が、これ1本で小次郎のキャラを語るのも如何なものかと思いますが、この人には剣豪に必須な狂気というものを持ち合わせておりません。
超フツー。全て常識・良識・見識の範囲内。野心もありきたりな恋する青少年。少しは「大菩薩峠」(勿論岡本喜八版)の机龍之介(仲代達矢)を見習って欲しいものです。
1時間19分くらい経過したところで宮本武蔵(三船敏郎)が登場するのですが、圧倒的存在感と野生、狂気をふりまく目力に一瞬でノックアウト。
どちらが主役の器か、は誰の目にも明らかです(「野良犬」の翌年、「羅生門」の年ですからね)。
諸説ある巌流島ですが、武蔵の遅刻は有り、「小次郎敗れたり」は無し、削った櫂(武蔵)vs木刀(小次郎)で物干し竿は無し、最期は武蔵が真剣抜いて幕。
流石に武蔵の弟子が総出でトドメは無し。
やはり歌舞伎役者に剣豪は(少なくとも映画では)無理だなぁと感じた1本でした。